50代は最後の貯め時などと言われていますが、思ったほど貯められないと感じている方も少なくないでしょう。
そう感じている50代の方の感覚は間違っていません。
実際、以前に比べて50代の方の老後資金準備は難しくなっています。
なぜ、今の50代は老後資金を貯めにくくなったのでしょうか?解決策はあるのでしょうか?
今回は、以下の本を参考に50代が老後資金を貯めづらくなった理由とその対策について解説したいと思います。
『まだ間に合う! 50代からの老後のお金のつくり方 深田晶恵』
50代の方だけでなく、これから50代になる方も参考にしてください。
50代の6世帯に1世帯が貯蓄ゼロ
少し古いデータですが、本書に載っている50代の貯蓄に関するデータは以下の通りです。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、世帯主が50代の世帯の貯蓄額(2016年)の平均は1049万円6000円。
2004年時点よりも254万円減と約2割も減っている。
更に「貯蓄ゼロ」の世帯の割合も8.1%から14.8%と7ポイント近く増加。
貯蓄状況が厳しくなっているのは全世代共通ですが、現役世代の中で「貯蓄が増えた」世帯の割合は50代が最も低く、「貯蓄が減った」割合は50代が最も高くなっている。
データ上でも50代の貯蓄を取り巻く環境は厳しさを増していると著者は指摘。
50代がお金を貯めにくくなった理由を本書では5つ挙げていますが、今回はその中から下記4つのポイントについて解説します。
- 税金・社会保険料のアップで手取収入が年々減少
- 超低金利のため利息でお金が増やせない
- 子供の教育費がハイパーインフレ状態
- 多額の住宅ローンを「長く」借りている
理由①:税金・社会保険料のアップで手取収入が年々減少
老後資金を貯めづらくなっている理由の1つ目は手取収入の減少。
手取収入とは、額面の収入から所得税・住民税、社会保険料(公的年金・健康保険)などを差し引いた金額のこと。
税金と社会保険料は毎年のように負担が増してきたため、手取収入はその分だけ減っています。
本書に掲載されている年収700万円のケースの手取額推移は下記の通り。
- 2002年時点の手取額:587万円
- 2017年時点の手取額:537万円
15年間で手取収入が50万円も減っています。
仮に50万円を全額貯蓄に回すとしたら、毎月4万円以上の積み立てが可能。
平成16年からは平成29年にかけて厚生年金の保険料率が段階的に引き上げられました。
現在は、保険料率が上限まで上がり、厚生年金保険料の上昇は止まっていますが、健康保険料や介護保険料は変動しています。
また、今年は新型コロナの影響で雇用保険料が引き上げられることが決まっています。
今夏の参議院選挙で自民党が大勝すれば、コロナによる財政出動を理由に消費増税の議論が出る可能性もあるでしょう。
今後も給与が上がらなければ、更に手取収入は減る可能性があります。
理由②:超低金利のため利息でお金が増やせない
超低金利が長引き、預貯金の利息ではお金が増やせない状態になっています。
以前は、郵便局の定額貯金や一時払い養老保険など安全確実に10~15年かけて元本を2倍近くに増やす手段がありましたが、今はありません。
更に悪いことに、海外のインフレや「悪い円安」が進み、給料が上がらないのに物価が上がるという最悪な状況に陥りつつあります。
毎年のように物価が上がる時代になれば、相対的にお金の価値は下がるので、インフレに負けない「資産」に投資しなければ、どんどん貧しくなってしまいます。
理由③:子供の教育費がハイパーインフレ状態
子供の教育費の高騰もお金を貯めづらい状況を助長しています。
子供の教育費の高さを実感している方も多いでしょう。
本書のデータによると、1982年と2017年の大学の年間授業料比較は下記の通り。
- 私立大学:約41万円(1982年)→約90万円(2017年)
- 国立大学:約22万円(1982年)→約54万円(2017年)
上記の通り、授業料は国立大学で2.2倍、私立大学で2.5倍にもなっています。
一方、下図の通り、約30年の間、実質賃金は増えていません。
(出典:全労連)
理由④:多額の住宅ローンを「長く」借りている
低金利の影響で多額の住宅ローンを長期間にわたり借りている人が増えました。
住宅ローンの完済年齢は以前70歳まででしたが、80歳まで引き上げられ、定年以降に延々と返済が続くローンを組む人が増えています。
更に超低金利が続く中、住宅ローン金利の低下による「借り過ぎリスク」も高まっていると著者は指摘。
借入時の金利が低いとそれだけ毎月の返済額も少なくて済むため、目先の負担感だけで判断し、多額のローンを組んでしまう傾向があります。
定年時に住宅ローンの残債を退職金で一括返済してしまうと、老後資金に大きな影響が出ます。
なお、退職時まで住宅ローンが残っている場合の返済方法に関して本書に詳しく書かれているので、気になる方はご参照ください。
老後資金は3000万円必要!?
本書では一般的なサラリーマン家庭で老後資金には3000万円程度が必要としています。
老後2000万円問題で2000万円という数字が話題になりましたが、2000万円は老後に公的年金だけでは不足する生活費。
医療費や住宅の修繕費などを考慮すれば、更に必要額が増えます。
本書では不足する生活費を約2000万円、医療費・住宅修繕費などを1000万として、合計3000万円としています。
なお、この3000万円という数字はあくまでも一つの事例という点に注意が必要。
実際に必要となる老後資金の額は、各家庭でシミュレーションする必要があります。
50代から老後資金を準備するための方法とは?
貯めにくくなっている中で、老後資金を3000万円も準備することが可能なのでしょうか。
著者の深田さんは、危機感を持つことが最も大切なことで、老後資金に不安を持っている時点で、老後準備に向けて一歩を踏み出せていると指摘。
不安を感じていれば、対策を行動に移しやすいでしょう。
私の考える50代から老後資金を準備するための方法は下記の通り。
- 生活費のダウンサイジングよる運用資金の捻出
- 老後資金を運用しながら取り崩す
生活費のダウンサイジングよる運用資金の捻出
私は、低金利が長引く現在の状況下では、資産運用をすべきだと考えています。
下記のような記事も書きましたが、長く健康で働き続けられるかどうかは分かりません。
しかし、50代からでは資産運用を始めるのは遅くはないか?
遅くはありません!50代だとしても諦める必要はありません!
人生100年時代には老後が長くなるので、老後資金が不安であれば、今日からでも資産運用を検討するべき。
自分も長く働きながら、お金にも働いてもらうという考え方が必要でしょう。
なお、資産形成は下記の数式で表わせます。
資産形成=(収入-支出)+(資産×運用利回り)
上記の数式から導き出される「資産を増やす方法」はたった3つしかありません。
- 収入を増やす
- 支出を減らす
- 運用利回りを上げる
上記の中で一番簡単な方法が支出の削減。
資産運用するには、余剰資金が必要です。
運用するための余剰資金がないのであれば、捻出するしかありません。
まずは、支出の削減として固定費(携帯スマホなどの通信費・生命保険料・車関係費用・家賃など)を減らす。
それでも余剰資金を捻出できないのであれば、副業。また、専業主婦(夫)家庭であれば、共働きで収入を上げることを考える必要があります。
なお、専業主婦(夫)やパート主婦(夫)が働く場合の社会保険や収入の壁に関する考え方については、下記記事をご参照ください。
できることは全てやり、老後はなんとかなると考えない方が賢明です。
老後資金は運用しながら取り崩す
50代から資産運用を始めた場合、運用期間が短くなるため目標とする額まで資産を積み立てることができない可能性があります。
十分な額を積み立てられていない状況で資産を取り崩す際に重要となるポイントは、運用を継続しながら取り崩すこと。
運用を継続しながら取り崩すことで、資産寿命を延ばすことができます。
運用しながら資産を取り崩すケースをシミュレーションしてみました。取り崩しのシミュレーションはセゾン投信のサイトを活用しています。
65歳までに老後資金2,000万円を準備する予定が1,000万円しか積み立てられず、資産を取り崩すシミュレーション例は下図の通り。
【シミュレーション条件①】
資産額:1000万円
取り崩し額:毎月5万円
運用利回り:5%
1,000万円を運用せずに毎月5万円ずつ取り崩した場合、16年8ヶ月(81歳8ヶ月)で資産がゼロになってしまいます。
しかし、年利5%で運用を継続しながら取り崩した場合、資産寿命は34年6ヶ月(99歳6ヶ月)となります。
また、下記のような条件で取り崩せば、資産は減るどころか逆に増えることになります。
【シミュレーション条件②】
資産額:1000万円
取り崩し額:毎月4万円
運用利回り:5%
老後2000万円問題の「2000万円」は運用せずに取り崩すことを前提に計算された数字。
上記のように運用しながら資産を取り崩すことを前提にすれば、老後に必要な資産額は運用せずに取り崩す場合と比べると少なくて済みます。
また、老後の生活をダウンサイジングして取り崩す額を少なくすれば、資産が減るどころか増えていくケースもあるでしょう。
これから50代になる方が注意すべきポイントとは?
これから50代になる方に関しても、老後資金が貯めづらい状況が続く可能性は非常に高いでしょう。
よって、50代になる前から、上記の点に注意しつつ資産運用などを考える方が賢明です。
教育費の準備は早めから。どの程度教育費がかからるかを知っておくことが重要。
また、住宅ローンは無理に組まない。
銀行も商売です。銀行が貸してくれる額が住宅ローンの適正額ではありません。
多くの地域で不動産の価値が下がっていく時代になるので、借り過ぎには要注意です。
晩婚化が進んでいるので50代ではなく、結婚する前や子供が生まれる前が一番の貯め時になってきています。
50代は子供が大学などに進学する時期と重なり、教育費がかさむ。また、家を購入すれば住宅ローン返済も家計の負担になるでしょう。
まとめ
50代が貯めづらくなった根本原因は日本政府の失政です。
バブル崩壊後の約30年間を失われた30年にしてしまった。
失われた30年の間、デフレ対策をしないといけなところをインフレ対策をするという全く真逆の政策を行っています。
アクセルを踏むべき状況下でブレーキを踏んでいる状態。景気が良くなるわけがありません。
今後も益々、状況が悪化していく可能性もあるでしょう。
行き過ぎた自己責任論には問題がありますが、自分の身は自分で守る考えも重要。
危機意識を持って50代からの老後資金準備に取り掛かる必要があります。
なお、今回、参考にした本は良書です。50代からの貯め方のヒントが満載。
著者自身も自営業夫婦で老後資金準備を始めるのが遅かったそうで、その経験もあり、退職金や公的年金を有利に受け取るための税金の知識などについて丁寧に解説されています。
老後資金準備に不安を感じている場合は、50代未満の方にもおすすめです。
『50代からの老後のお金のつくり方 深田晶恵』