
日本銀行(日銀)は1月24日に開いた金融政策決定会合で追加利上げを決定。
政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%から0.5%に引き上げることを発表しました。
半年ぶりの利上げで政策金利は2008年10月以来、17年ぶりの水準となります。
日銀の利上げによって私たちの生活にどのような影響が出るのでしょうか?
景気が良くなり私たちの生活は向上するのでしょうか?
今回の記事では、日銀の利上げについて下記ポイントを解説します。
- 日銀の利上げによる日常生活への影響
- なぜ日銀は利上げしたのか?利上げの必要性はあったのか?
- 日銀の利上げ継続で円安は是正されるのか?
日銀の利上げが私たちの日常生活にどのような影響があるのか気になる方は参考にしてください。
利上げによる日常生活への影響は?
日銀は2024年3月にマイナス金利を解除して以来、今回で3回目の利上げを行い、政策金利を0.5%に引き上げました。
これは2008年10月以来、約17年ぶりの水準。
この利上げにより、私たちの日常生活には下記のような影響が考えられます。
- 預金金利の上昇
- 変動型住宅ローン金利の上昇
- 企業向け貸出金利の上昇
預金金利の上昇
三菱UFJ銀行と三井住友銀行、みずほ銀行のメガバンク3行は、普通預金の金利を現在の0.1%から0.2%に引き上げると発表しています。
預貯金が潤沢にある方にとっては、これまでより多くの利息を受け取ることができます。
変動型住宅ローン金利の上昇
日銀の利上げにより変動型住宅ローン金利の指標となる短期プライムレート(短プラ)も引き上がります。
三菱UFJ銀行と三井住友銀行が短プラを年1.625%から1.875%に引き上げることを発表。
新規の借り入れ分は4月から、既存利用者は6月の返済分から順次、新たな短プラを反映した基準金利が適用されます。
住宅ローンの変動金利型とは、半年ごとに金利が見直されるタイプ。
市場金利の変動に応じて返済額が増えたり減ったりします。
通常、変動金利型での金利見直しは半年ごとですが、ほとんどの住宅ローンでは実際の返済額が変わるのは5年ごと。
また、金利上昇によって返済額が増えるとしても、それまでの返済額の1.25倍までしか増えないというルールが設けられています。
例えば、当初の返済額が10万円であれば、12万5千円までしか返済額は増えません。
上記ルールを「どんなに金利が上がっても、返済額の負担増には上限がある」と誤解している方も少なくないのですが要注意。
1.25倍ルールは毎月の返済額に占める利息部分の割合が増えて、元金部分の割合が減るため、金利上昇による負担を先送りにしていることになるから。
元金返済を遅らせている分、将来の負担は大きくなります。

(出典:日本経済新聞)
日銀が利上げすると変動型住宅ローンを限度額一杯で借り入れていて金融資産が少ない方にとっては負担ばかりが増えることになります。
また、返済額から元金部分に充当される金額がゼロになる「未払い利息」の発生に注意が必要。
金利が上昇し続けると未払い利息が貯まり、返済期間終了までに解消されないケースもあります。
原則、解消されない未払い利息はローン期間終了時に一括返済が必要となります。
企業向け貸出金利の上昇
中小企業などは、借入金の金利上昇により資金調達が難しくなる可能性があります。
新型コロナ時のゼロゼロ融資の返済で苦しむ中小企業などは更に資金を借りにくくなります。
2024年の倒産件数9000件超と高水準。
日銀の利上げにより倒産件数が増える可能性があり、その結果として失業者が増えるリスクも考えられます。
住宅ローンの返済負担が増えることや企業向けの貸出金利が上がることなどから、総合すると日銀の利上げは停滞する日本経済にマイナス影響を与えることになります。
なぜ日銀は利上げしたのか?利上げの必要性はあったのか?
中央銀行が利上げする目的は、活発な経済活動によって需要が大きくなり過ぎることによるインフレ(物価の上昇)を抑制することです。
つまり、過熱しすぎた経済を冷ますために利上げという金融政策が必要ということ。
翻って今の日本経済は過熱してるでしょうか?
2月に発表される2024年の日本のGDPはマイナスになるとの予想が出ています。
また、物価上昇は続いていますが、これは主に輸入コストの増加による「コストプッシュ型」のインフレであり、需要の増加による「ディマンドプル型」ではありません。
日銀の植田総裁は賃金の上昇を指摘していますが、物価を加味した実質賃金はマイナスの状態。
2024年に実質賃金がプラスになったのは6月・7月・11月の3か月だけ。

(出典:日本経済新聞)
その3か月のプラス要因はボーナス支給なので、所定内の給与で考えれば32ヶ月連続で実質賃金はマイナスの状態。
実質賃金の状態からも現在のインフレがディマンドプル型の物価上昇ではないことが分かります。
そのため、利上げによる物価抑制効果は限定的。
経済が停滞し、物価上昇の主因が需要増ではない中での利上げは景気をさらに冷やすリスクを伴います。
上記の通り、現状の日本経済の状態を考えれば利上げするべきではありませんでした。
では、なぜ日銀は利上げしたのか?
長引く円安が物価高の一因となっており、日銀はこれを抑制するために利上げを行わざるを得なかったのでしょう。
しかし、0.25%程度の利上げでは米国との金利差を十分に縮小できません。
円安是正には効果が限定的だったのは、利上げ後の為替レートを見れば明らか。
しかし、今回の利上げを見送れば円安が加速する可能性もあり、日銀は八方塞がりの状態だったと言えるでしょう。
日銀の利上げ継続で円安は止まる?
上記の通り、現状の日本経済は利上げに耐えられる状況にはありません。
では、どのようにすれば円安の流れを阻止できるのでしょうか?
日銀が利上げできるように日本の景気を浮上させる必要があります。
バブル崩壊後の約30年間、日本経済は低迷を続けてきました。
最近では、2014年に5%から8%、2019年には8%から10%へと2度の消費増税が行われ、更にコロナの蔓延で日本経済は瀕死の状態。
日銀の黒田前総裁は2013年から日本経済を浮上させるべく、消費者物価の2%上昇を目指して緩和政策を継続してきました。
しかし、中央銀行の金融緩和政策だけでは景気を浮上させることはできません。
これは日銀が10年超という長期に渡り金融緩和を続けてきても日本の景気が浮上しなかったことで証明済み。
では、どのように日本の景気を浮上させるべきなのか?
そのヒントはアベノミクスの失敗にあります。
第2次安倍政権において、安倍晋三首相(当時)は下記「3本の矢」を柱とする経済政策を行い日本経済を立て直そうとしました。
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政出動
- 民間投資を喚起する成長戦略
しかし、アベノミクスは失敗しました。
失敗の要因は、1本目の矢である大胆な金融政策は行われましたが、2本目の矢である機動的な財政出動が行われなかったから。
財政出動が行われなかっただけでなく、二度に渡って消費税増税まで行われ、日本経済は更に弱体化。
瀕死の状態である日本の景気を浮上させるには、大胆な金融緩和を行いつつ積極的に財政を出動し、個人や民間企業がお金を使う状況を作り出す必要がありました。
しかし、バブル崩壊後の30年間行われたきたことは全く真逆の緊縮財政。
国債残高が増えれば「日本は財政破綻する」や「ハイパーインフレが起こる」などといった誤った考え方が日本に蔓延してプライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視してきました。
緊縮財政が行われ続けたことにより日本経済は疲弊し、2年間で2%のインフレ目標を達成する予定だった日銀は10年以上も金融緩和を継続することになっています。
日本経済復活には金融政策と財政政策の両輪が必要
景気が悪い時に個人や企業が節約するのは、非常に合理的なこと。
景気が悪い状況下では個人は節約し、需要が停滞している中で企業は設備投資を控えます。
経済が停滞している状況下で、お金を使えるのは通貨発行権を持つ国(政府)しかありません。
国(政府)の大胆な財政出動を呼び水として、個人や企業が積極的にお金を使う状況を作り出す必要があります。
財政出動の財源は何か?それは国債です。
日本(政府)の国債残高は1000兆円を超えており、このままでは財政破綻すると主張する方がいますが、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはありません。
財務省も外国格付け会社宛意見書要旨で「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」としています。
よって、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することでデフレ不況を脱する必要があります。
自国通貨建ての国債を発行している国の財政破綻(デフォルト)はないので、インフレ率を目標に財政出動すべきです。
消費税を廃止してデフレ脱却を目指す
国債を発行し、何を行うべきか?
真っ先に行うべき政策の1つが、消費税の廃止です。
消費税を廃止して消費が増えれば、経済は活性化します。
経済が活性化して国内の需要が増えれば、企業は設備投資を増やすでしょう。
個人も企業もお金を使うようになれば、更に経済は活性化します。
上記のような好循環が発生すれば、企業は儲かるので従業員の給与も上がるでしょう。
給料が上がって消費が更に活性化すれば、デフレを脱してインフレになります。
需要が増えることによるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれ、経済が好循環する良いインフレです。
ディマンドプルインフレにより物価が上がるようになれば、日銀(日本銀行)による利上げ継続も可能になるでしょう。
日銀が金利を上げられる状況になり、日米の金利差が縮まるようになれば、極端な円安の流れも落ち着きます。
更に日本経済の好循環が続けば、法人税や所得税の税収が増え、結果的にPB(プライマリーバランス)黒字化も達成できる可能性があるでしょう。
まとめ

日本銀行(日銀)は1月24日に開いた金融政策決定会合で追加利上げを決定。
政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%から0.5%に引き上げることを発表しました。
「失われた30年」に苦しむ現状の日本経済は利上げに耐えられる状況にはありません。
円安による物価高を抑制するために日銀が利上げを継続するのであれば、PB黒字化という間抜けな目標を捨てる必要があります。
日銀(中央銀行)による金融政策だけでは景気は浮上しません。
金融政策と財政政策の両輪が必要です。
国(政府)による財政政策により日本経済を浮上させない限り、日本が長引く円安起因の物価高から抜け出すことはできないでしょう。