米国やヨーロッパなどの国々が金利を上げている局面で、日本だけは日本銀行(日銀)による金融緩和政策が続き、低金利を維持しています。
そのような状況の中、変動型の住宅ローン金利は超低金利の状態。
しかし、海外のインフレや円安の影響による日銀への利上げ圧力や黒田総裁の任期満了が2023年4月に迫り、日本でも金利が上がるのではないかと心配している方も少なくないでしょう。
今後の金利上昇局面を予想して、変動金利から固定金利への借り換えや変動金利よりも全期間固定型の住宅ローンを選ぶべきではないかと考えている方も少なくないはず。
しかし、安易な全期間固定金利への借り換えや全期間固定金利の選択はおすすめできません。
そこで今回は、住宅ローンは固定金利と変動金利のどちらを選ぶべきかについて解説します。
住宅ローンを全期間固定か変動金利にするかで悩んでいる方は参考にしてください。
- 住宅ローンの金利は3タイプ
- 全期間固定金利型のメリット・デメリット
- 変動金利型のメリット・デメリット
- 最も選ばれている金利タイプは?
- 変動金利をおすすめする理由とは?
- 変動金利の住宅ローンを選ぶ際の注意点
- まとめ
住宅ローンの金利は3タイプ
まずは住宅ローンの金利タイプについて簡単に解説します。
住宅ローンの金利タイプには、「全期間固定金利型」「変動金利型」「固定期間選択型」の3種類があります。
全期間固定金利型
全期間固定金利型とは、ローン契約時の金利が完済まで変わらない金利タイプ。
市場金利が変動しても金利が変わらず、返済額も一定です。
変動金利型
変動金利型とは、半年ごとに金利が見直されるタイプ。
市場金利の変動に応じて返済額が増えたり減ったりします。
通常、変動金利型での金利見直しは半年ごとですが、ほとんどの住宅ローンでは実際の返済額が変わるのは5年ごと。
また、金利上昇によって返済額が増えるとしても、それまでの返済額の1.25倍までしか増えないというルールが設けられています。
例えば、当初の返済額が10万円であれば、12万5千円までしか返済額は増えません。
上記ルールを「どんなに金利が上がっても、返済額の負担増には上限がある」と誤解している方も少なくないので要注意。
1.25倍ルールは毎月の返済額に占める利息部分の割合が増えて、元金部分の割合が減るため、金利上昇による負担を先送りにしていることになるから。
元金返済を遅らせている分、将来の負担は大きくなります。
また、返済額から元金部分に充当される金額がゼロになる「未払い利息」の発生に注意が必要。
金利が上昇し続けると未払い利息が貯まり、返済期間終了までに解消されないケースもあります。
原則、解消されない未払い利息はローン期間終了時に一括返済が必要となります。
固定期間選択型
固定期間選択型とは、変動金利型に10年等の「固定金利を選択した期間」は金利が変わらないようにするというオプションがついているタイプ。
変動金利には一般的に上記の「125%ルール」がありますが、「10年固定金利」などの固定期間選択型は金利の上昇がそのまま返済額に反映されるので、10年後などに返済額が急に増えることもあるので注意が必要です。
全期間固定金利型のメリット・デメリット
全期間固定金利型は金利上昇リスクがないため、将来的に金利上昇が見込まれる場合には安心なタイプ。
また、借入と同時に完済までの返済額が確定するので、資金計画が立てやすい点もメリットの1つ。
しかし、一般的には変動金利よりも適用される金利が高めなので、低金利が継続する状況では変動金利型よりも総返済額が多くなります。
変動金利型のメリット・デメリット
通常、変動金利型の金利は固定金利型より低く設定されていて、現在のように長期にわたって低金利が継続する状況下では有利な金利タイプ。
しかし、市場金利が上昇すれば、返済額が増えることになります。
また、契約時点では将来の適用金利がわからず、総返済額も確定しません。
将来的に金利が上昇する局面では、固定金利型に比べて不利になる可能性があります。
最も選ばれている金利タイプは?
ここまで、住宅ローンの金利タイプについて簡単に解説しましたが、実際に利用されている金利タイプの割合はどうなっているのでしょうか。
住宅金融支援機構が行っている「民間住宅ローン利用者の実態調査(2022年4月調査)」によると、下記の通り。
- 変動型:73.9%
- 全期間固定型:8.9%
- 固定期間選択型:17.3%
なお、最も選ばれている金利タイプが最も優れているというわけではありません。
住宅ローンを組む方の収入やライフスタイルなどを勘案して金利タイプを選ぶ必要があります。
変動金利をおすすめする理由とは?
今後の金利上昇を予想して、住宅ローンを変動金利から固定金利へ借り換えをした方がいいのではないかという相談が増えています。
しかし、安易な変動金利型から固定金利型への借り換えはおすすめしません。
また、これから新規で住宅ローンを組む場合も変動金利がおすすめ。
私が変動金利をおすすめする理由は下記の通りです。
- 日本は大きく金利を上げられる経済状況ではない
- 変動金利型と固定金利型の金利差が大きい
日本は大きく金利を上げられる経済状況ではない
現在の日本の経済状況を考えると、金利を上げられる状態ではありませんし、短期的に経済状況が好転し金利を上げられる状況になる可能性も低いでしょう。
しかし、世論の日銀に対する圧力により日銀が金利を上げるという決断をする可能性もあります。
その場合も緩やかな利上げとなるでしょう。
仮に大きく金利を上げるようなことがあれば、経済状況が今よりも悪化し、金融緩和政策に逆戻りすることになる可能性があります。
「未払い利息」が発生するような急激な金利上昇が発生するような状況は、現在の日本では予想できません。
また、以下の動画にあるように「未払い利息」を過度に心配する必要性は低いでしょう。
変動と固定の金利差が大きい
将来の金利上昇に備えるのであれば、返済期間中の適用金利が変わらない「全期間固定金利型」が候補に挙げられるでしょう。
ただし、「変動金利型」や「固定期間選択型」に比べると、全期間固定金利型の金利水準は高めに設定されています。
最近、長期の固定金利型の金利水準は上昇傾向にあります。
一方で変動金利型の金利水準は史上最低水準が続いていることから、その金利差は概ね1%程度もの開きがある状態。
例えば、返済期間35年で借入金額4000万円を固定金利(1.5%)と変動金利(0.5%)で借りた場合の返済額のシミュレーション例は下記の通りです。
固定金利(適用金利年率1.5%)
- 毎月返済額:122,473円
- 年間返済額:1,469,676円
- 総返済額:51,438,816円
変動金利(適用金利年率0.5%)
- 毎月返済額:103,834円
- 年間返済額:1,246,008円
- 総返済額:43,610,126円
金利差が1%のままだと仮定すると、総返済額では約780万円、年間返済額では約22万円の差になり、差額は小さくありません。
最近のネット記事などでは金利上昇局面での変動金利の危険性がネタになっていますが、少し煽り過ぎでしょう。
ネット記事などに煽られて慌てて固定金利に借り換えないように注意が必要です。
変動金利の住宅ローンを選ぶ際の注意点
本来、変動金利型の住宅ローンが向いているのは資産にゆとりがあり、収入も安定している人です。
よって、目先の金利の低さを優先して変動型を選択すると、金利上昇リスクに耐えられない危険性があります。
つまり、変動金利で借入可能額の上限までカツカツで住宅ローンを組むのは危険。
将来の金利上昇に備えて「手元資金を残しておき、繰り上げ返済でローン残高を減らす」などといった対策ができるような余裕を持ったローンを組む必要があります。
変動金利型で住宅ローンを組む場合は、余裕のある返済額になるように借入額を抑えるべき。
住宅ローンを返済しながら余裕資金を運用などして金利が上昇する局面が来れば、繰上げ返済をするというくらいのスタイルが理想でしょう。
余裕を持った返済額で借入額を抑えられないのであれば、その物件は身分不相応と考えるべきです。
金利の動きを正確に予想することはできない
現在の日本は、米国などのように金利を上げられるような経済状況ではなく、当分の間は超低金利が続くと予想できます。
しかし、金利の動きを正確に予想することは誰にもできません。
現在は歴史的に低金利な状態であることは間違いなく、これ以上金利が低下する余地は低いという認識はしておくべきです。
まとめ
今後の金利上昇局面を予想して、変動金利から固定金利への借り換えや変動金利よりも全期間固定型の住宅ローンを選ぶべきではないかと考えている方も少なくないでしょう。
しかし、安易な全期間固定金利への借り換えや全期間固定金利の選択はおすすめできません。
私が変動金利をおすすめする理由は下記の通りです。
- 日本は大きく金利を上げられる経済状況ではない
- 変動金利型と固定金利型の金利差が大きい
本来、変動金利型の住宅ローンが向いているのは資産にゆとりがあり、収入も安定している人です。
よって、将来の金利上昇に備えて「手元資金を残しておき、繰り上げ返済でローン残高を減らす」などといった対策ができるような余裕を持ったローンを組む必要があります。