現役投資家FPが語る

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【iDeCo】掛け金の限度額をアップしても日本人の所得は増えない!?


岸田首相が本部長をつとめる直轄機関「新しい資本主義実行本部」で、成長と分配の好循環を実現する所得向上策として個人型確定拠出年金iDeCoイデコ)の拠出限度額の引き上げが検討されていると報道されました。

 

iDeCoの拠出限度額が引き上げられれば、より節税ができると喜ぶ方も多いでしょう。

 

しかし、現状の日本ではピントがズレた政策だと言わざるを得ません。

 

現在のような経済状況下でiDeCoの掛金上限を引き上げても、日本人の所得は増えずに格差拡大が進むだけでしょう。

 

今回の記事では、iDeCoを拡充しても日本人の所得が増えない理由と、現在の日本で行われるべき政策について解説します。

 

「岸田よくやった!」と喜んでいる方は参考にしてください。

 

 

iDeCoの掛け金上限をアップしても日本人の所得は向上しない

報道によるとiDeCoの掛金上限を2倍程度に引き上げることを検討するようです。

 

掛金が2倍になれば、所得控除額も2倍になるので個人にとっては悪い改正ではありません。

 

しかし、結論から申し上げると、個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出限度額を引き上げても多くの日本人の所得は向上しません

 

iDeCoの拠出限度額を引き上げることは、むしろ現状の日本経済にはマイナスの影響があります。

 

掛け金の上限を引き上げれば、日本人の貧困化が進むとともに貧富の差も拡大するでしょう。

 

岸田さんは元銀行マンで自身を経済通と自認しているようですが、相当な経済音痴。

 

次項以降で個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出限度額引き上げで、日本人の所得が向上しない2つの理由について解説したいと思います。

 

 

理由①掛金を捻出するための節約によって消費が落ちる

日本の実質賃金は2年連続マイナスの状態。

 

物価の上昇に賃上げが追いついていない状況下で、iDeCoに回す資金が潤沢という方はどれくらいいるのでしょうか。

 

iDeCoの掛金拠出に回すため節約するという方も少なくないはず。

 

拠出額を増やすために消費を我慢して掛金に回す人が増えれば、日本経済が更に停滞する可能性があります。

 

iDeCoやNISAでの投資で収益が上がれば資産効果で消費が盛り上がるという方がいますが、投資資金が潤沢な一部の富裕層以外は時間がかかります。

 

一般的な方は月3~5万円程度の積立投資が限度ではないでしょうか。

 

そのような方達が積立投資の成果を実感するとしても10年超の時間が必要になると思います。

 

また、そもそも老後資金が心配でiDeCoやNISAを始める方が大半なはず。

 

そのような方達が多少資産が増えたからといって消費を増やすでしょうか。

 

更にiDeCoは原則60歳まで資産を引き出せないのでNISAよりもタチが悪い。

 

日本のGDPは消費が5割以上を占めます

(出典:消費者庁)

 

その消費が落ち込めば経済にはマイナスの影響大。

 

今後もコストプッシュ型のインフレが続く可能性もあるので、更に消費が低迷する形で日本経済に大きな影響を与える可能性は否めません。

 

日本経済が低迷すれば、労働者の賃金が伸び悩むのは間違いないでしょう。

 

 

理由②円安による物価高を助長する

新NISAでは海外株式型のファンド(投資信託)で運用する人が増えています。

 

実際、2024年1月の資金流入額では「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に約3400億円、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」に約2000億円

 

更に2024年2月の資金流入額では「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に約2200億円、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」に約1800億円となっています。

 

成長投資枠(年240万円)を利用して1月に一括投資する人もいるとはいえ、上記2ファンドだけで2ヶ月間に約9400億円もの資金が流入。

 

iDeCoには元本確保型(保険や預金)があるとはいえ、米国株式や全世界株式での運用が増えていくのは間違いないでしょう。

 

外国株式型の投資信託への投資が増えれば、円を売って外貨を買うオペレーションが発生するので円安要因となります。

 

今後も円安が定着すれば、輸入品が高くなる形で物価高となるコストプッシュ型の悪性インフレが継続。

 

コストプッシュ型のインフレは、輸入品などの値段が上がることにより経費が増えて値上げする形になるので、日本企業の利益は大きく増えません。

 

企業の利益が増えなければ、従業員の給与も増えず、物価高だけが進み実質賃金は上がらない状況が続きます。

 

新NISAの開始やインフレの継続により、日本人の金融リテラシーは全体的に上がっています。

 

日本人のリテラシーが上がるほど海外株式型のファンドを選ぶ人が増え、その結果として円安を原因とする物価高を助長するという負のスパイラルが継続するでしょう。

 

 

日本に必要な政策は『資産所得倍増』ではなく『所得倍増』

日本政府は資産運用によって日本経済を浮上させ、日本人を豊かにしようとしています。

 

しかし、現状の日本でiDeCoやNISAの非課税枠を拡充しても日本全体が豊かになることはありません

 

これまで以下の記事でも書いてきましたが、現在の日本に必要な政策は『資産所得倍増』ではなく『所得倍増』です!

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つまり、現状の日本で必要なのは賃金が上がり可処分所得が増える状態を作り出す政策

 

政治家の仕事は企業に「賃上げしろ」という発言を繰り返すことではありません。

 

企業が賃上げをできる環境を整えることです。

 

企業が賃上げしやすくするためには、下記のような政策が有効です。

  • 消費税減税・廃止
  • 社会保険料減免

 

では、その財源はどこにあるのか?財源は国債一択です。

 

国債をこれ以上発行すれば、日本は財政破綻デフォルト)すると反対する方がいます。

 

しかし、下記記事で解説した通り、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはありません

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よって、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することで不況を脱する必要があります。

 

自国通貨建ての国債を発行している国の財政破綻(デフォルト)はないので、インフレ率を目標に財政出動し豊かな日本を取り戻すべきです。

 

過去30年間の日本の国債発行額は他の先進国に比べて少ないことを認識することが重要。

 

その結果、先進国の中で日本の経済成長率は異常に低い状況が続き、日本人の実質賃金も低迷しています。

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まとめ

資産所得倍増所得倍増が実現してから行うべきこと。

 

日本の実質賃金は2年連続マイナスの状態。

 

現状の日本でiDeCoやNISAの非課税枠を拡充しても、日本全体が豊かになることはありません。

 

iDeCoや新NISAは個人レベルでは豊かになれる制度でも日本という国全体で俯瞰して考えればマイナスの影響がある、まさに合成の誤謬が発生する可能性がある制度です。

 

合成の誤謬とは?

個人が合理的な行動をとっても多くの人が同じ行動をとることによって、全体としては悪い状態になること。

 

ピントがズレた政策が行われることによって、更に日本の衰退が進んでしまう可能性があります。

 

現在の日本で必要なのは賃金が上がり可処分所得が増える状態を作り出す政策

 

少なくとも実質賃金がしっかりとプラスになる状態が継続するまでは、国(政府)が財政出動して景気を浮上させるべきです。

 

iDeCoの拠出限度額引き上げはそれからでも遅くありません。