現役投資家FPが語る

20年以上の投資経験がある現役投資家FPが「人生100年時代」の資産運用や公的年金など「お金」の知恵について語ります

【収入の壁】共働きのパート主婦は扶養内で働くべき?


f:id:fp-investor-info:20210527181613j:plain

夫婦共働き世帯が増えていますが、夫が正社員で妻は扶養の範囲内で働くという「収入の壁」を意識している家庭も多いでしょう。

 

扶養の知識があれば、公的年金・健康保険などの社会保険料や税金を削減できます。

 

しかし、同じ扶養でも税と社会保険の仕組みで異なる部分があり、知らないと損をすることが多いのも現実。

 

今回は、夫婦共働きでどちらかが扶養の範囲内で働く場合に役立つ「収入の壁」についてと、パート主婦が節税しながら老後資金を確保する方法について解説します。

 

なお、今回は下記前提条件で記事を作成しています。

  • 夫が会社員(社会保険に加入)で給与所得は900万円以下
  • 生計を一にする妻がパート従業員
  • 扶養親族なし

 

 

収入の壁はいつくある?

f:id:fp-investor-info:20200722200033j:plain

収入の壁」は、103万円や130万円など全部で6種類あるといわれています。

 

収入の壁とは、働き方に影響を与える節目の金額で、現在は100万円、103万円、150万円、201万円が「税金の壁」、106万円、130万円が「社会保険の壁」と呼ばれています。

 

なお、社会保険と税では扶養の効果を得る人が異なる点に注意が必要。

 

社会保険は被扶養者(扶養される人)が保険料を払わなくてすむのに対し、税金は扶養者(扶養する人)の税負担が軽くなる。

 

例えば、妻が夫の被扶養者になることにより妻の社会保険料は不要に。一方、税金は妻が被扶養者であれば配偶者控除により夫の所得税住民税の負担が軽くなります。

 

また、扶養される側の収入の上限額とその判定時期は、社会保険と税で下記の通り異なります。

  • 税金:1~12月の給与収入を12月末で判断
  • 社会保険:将来に向かって随時判断

 

100万の壁(住民税)

住民税には「所得割」と「均等割」がありますが、所得割は総所得金額等が45万円以下であれば課税されません

 

よって、妻の年収が100万円以下の場合は給与所得(年収-給与所得控除額)が45万円以下となり、原則として、所得税、住民税ともに課税なし。

 

更に夫が加入する社会保険の被扶養者となるため社会保険料の負担も不要。

 

つまり、住民税が課税されるまでは「妻の給与=手取り」になるので、世帯の収入は妻の給与分だけ上がります。

 

なお、住民税の「均等割」については、自治体ごとに課税対象となる所得金額が異なるので注意が必要。

 

合計所得金額が45万円以下の場合は課税なし、と定められていることもあれば、38万円以下に設定されていることもあるなどの違いがあります。

 

よって、均等割については年収が100万円以下であっても課税されることがあり得るので、自治体のホームページなどで確認してください。

 

103万の壁(所得税)

給与収入には個人事業主の経費にあたる給与所得控除があります。

 

給与収入が1,625,000円までは給与所得控除は最大55万円。

 

よって、「給与所得控除:55万円」と「基礎控除:48万円」を足した103万円までは所得税がかかりません

 

妻の年収が103万円の場合は、給与所得が48万円となるため住民税のみ課税対象。

 

妻の年収が103万円を超えると給与所得が48万円を超えるため、所得税、住民税ともに課税対象となります。

 

106万の壁(社会保険)

年収106万円の壁とは、社会保険の壁のこと。

 

勤務時間や日数が一般社員の4分の3未満である短時間労働者(パート・アルバイト等)の場合、現在は下記のような条件で厚生年金・健康保険に加入する必要があります。

  1. 1週間当たりの所定労働時間が20時間以上であること
  2. 1カ月当たりの賃金が88,000円以上であること
  3. 雇用期間の見込みが1年以上であること
  4. 学生でないこと
  5. 従業員数が常時500人超の事業所(特定適用事業所)で働いている

 

上記⑵の賃金要件を年額にすると105万6,000円(88,000円×12カ月)となるので、「106万円の壁」と表現。

 

この賃金は契約ベースの金額で、賞与や残業手当、通勤手当などは月額賃金に含まれないので自身の賃金を確認する際には注意が必要です。

 

ちなみに、2022年10月から⑶の雇用期間の要件「1年以上」が2カ月超に、⑸の従業員数の要件「500人超」が100人超に変わります。

 

さらに、⑸の従業員数の要件100人超は2024年10月から50人超となるので、社会保険の加入対象の範囲がより一層広がることに。

 

詳細は、下記記事をご参照ください。

www.fpinv7.com

 

130万の壁(社会保険)

妻の働き方が、前述の条件(106万円の壁)に該当せず、年収130万円未満かつ、被保険者である夫の年収の2分の1未満であれば、夫が加入する社会保険の被扶養者となることが可能。

 

ところが、年収が130万円以上になると妻自身が国民健康保険料や国民年金保険料(妻が60歳になるまで)を負担する必要があります。

 

これが「130万円の壁」です。

 

上記の通り、106万円の壁といわれている社会保険の加入要件の賃金月額88,000円には、賞与や残業手当、通勤手当は含まれません。

 

しかし、「130万円の壁」については、労働の対価として受ける賞与や残業手当および通勤手当などは年収に含まれます

 

社会保険上の扱いでも異なる部分があるので、ご注意ください。

 

150万・201万の壁(配偶者控除)

150万円の壁」と「201万円の壁」は、「配偶者特別控除」の適用に関する年収の金額のこと。

 

夫の所得税等を計算する際に「配偶者控除」を適用することができるのは、妻の給与所得が48万円以下の場合。

 

夫の給与所得が900万円以下であれば、控除額38万円の配偶者控除が適用できます。

 

妻の給与所得が48万円(年収103万円)を超えると「配偶者控除」は適用できませんが、「配偶者特別控除」が適用可能。

 

年間の妻の給与収入が103万円(給与所得48万円)超から150万円(給与所得95万円)までなら夫は所得税で38万円、住民税は33万円の配偶者特別控除が満額使えて税負担が減ります。

 

下図の通り、配偶者特別控除は妻の給与所得に応じて段階的に控除額が変わります。

配偶者控除・配偶者特別控除

(出典:日本経済新聞)

 

妻の給与所得が130万円(年収197万円)超133万円(年収201万円)以下の場合は、最小控除額の3万円となり、この所得金額を超えると配偶者特別控除が適用できなくなります。

 

 

パート主婦はiDeCo(イデコ)の活用で節税しながら老後資金の準備が可能

f:id:fp-investor-info:20201020193903j:plain

6つも収入の壁があると、どこの壁で収入を抑えるべきか悩んでしまう方もいるでしょう。

 

稼げるのであれば、扶養を意識せずに思いっ切り稼ぐというのも1つの選択肢。

 

しかし、家事や子育てなどと仕事の両立を考えると月収10万円くらいという方も多いはず。

 

実際、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 平成30年分結果確報|厚生労働省」によると、パート収入の全国月間平均額は99,827円。


月収10万円のパート主婦には、iDeCo(イデコ)の活用がおすすめ。

 

収入がない専業主婦(主夫)はイデコに加入するメリットはほぼないですが、パート収入などの所得がある場合には、加入のメリットがあります。

www.fpinv7.com

 

毎月10万円の給与収入があるパート主婦がイデコに加入した場合のシミュレーションをしてみました。

  • 給与:10万円(月額)
  • イデコ掛金:2.3万円(月額)
  • 勤務年数:20年間

 

掛金拠出時の節税効果

給与収入が120万円の方がイデコに毎月2.3万円を拠出した場合、収入から下記の所得控除を差し引くことにより課税所得はゼロとなり所得税はかかりません。

  • 給与所得控除:55万円
  • 基礎控除:48万円
  • 小規模企業共済等掛金控除:27.5万円

 

パート収入から老後資金のために貯金をしようと考えている方もいるでしょう。

 

そのような方はイデコを活用すれば、節税しながら老後資金準備ができます。

 

老齢給付受取時の節税効果

月2.3万円の掛金を年利5%で20年間運用すると、元利合計で937万円になります。

 

イデコの老齢給付を一時金で受け取る場合は退職所得となり、800万円の退職所得控除(40万円×20年)が差し引かれます。

 

937万円のうち800万円を一時金で受け取れば、退職所得はゼロとなり税金はかかりません

 

一方、残りの137万円を年金で受け取ることにすれば、公的年金等控除が使えます。

 

仮に、6.5万円の老齢基礎年金を受け取っているとして、137万円を5年間の年金で受け取るとすれば、1年間27.4万円。

 

65歳からの公的年金等控除は110万円なので、受け取る年金は105.4万円(78万円+27.4万円)となり、公的年金等控除内に収まり税金はかかりません

 

上記のシミュレーション例では、働いている間は小規模企業共済等掛金控除により節税しながら、年金受け取り時も税金がかからない状態を作れます。

 

パート主婦の場合は、NISAよりもイデコを優先的に活用する方がお得ということがわかります。

 

ただし、イデコの掛金は原則、60歳までは引き出しできないという資金拘束を受けるというデメリットにはご注意ください。

 

 

まとめ

f:id:fp-investor-info:20201002152346j:plain

収入の壁は下記の通り6つもあるので、理解するのが大変という方も多いでしょう。

  • 100万の壁(住民税)
  • 103万の壁(所得税)
  • 106万の壁(社会保険)
  • 130万の壁(社会保険)
  • 150万・201万の壁(配偶者控除)

 

しかし、ちょっとした知識で税金などの負担を下げることができます。

 

また、パート主婦の場合はiDeCo(イデコ)を上手に活用すれば、節税しながら老後資金の準備も可能です。