
新しい少額投資非課税制度(NISA)をきっかけに資産運用を始めた人も多いでしょう。
日本は「貯蓄から投資へ」を掲げ、資産運用立国を目指しています。
投資による資産効果で日本経済は活性化するという専門家もいますが、本当にそれで日本人は豊かになるのでしょうか?
残念ながら、現状の日本では投資をする人が増えるほど、経済はむしろ停滞する可能性があります。
今回の記事では、日本経済新聞が行った読者約1900人を対象にしたアンケート調査をもとに下記ポイントを解説します。
- 資産運用で日本経済は活性化するのか?
- 日本に必要なのは「金融教育」ではなく「経済対策」
資産運用で豊かになりたいと考えている方は参考にしてください。
資産運用で日本経済は活性化する!?
「貯蓄から投資へ」が日本経済の起爆剤になる、そんな声をよく耳にします。
しかし、本当に資産運用が広がれば日本は豊かになるのでしょうか?
残念ながら、現状の日本では投資をする人が増えるほど、経済はむしろ停滞する可能性があります。
その理由は、日本のGDPの5割以上を占める個人消費が減ってしまうから。
日経新聞のアンケートに答えた人たちの毎月の新規投資額の中央値は10万円。
毎月の新規投資額の中央値は10万円だった。年代別では30~40代は10万~20万円が約3割と多数派だ。新規投資額を3年前と比べると、20~40代は5割強が増やし3割は2倍以上にした。
(出典:日本経済新聞)
長らく続いたデフレ(物価が下がり、現金の価値が上がる状態)の影響で、日本人の資産の多くが現金に偏っています。
日本の家計が持つ金融資産は51%が現預金で株・投信は18%と少ない。米国は現預金が12%、株・投信が55%だ。運用に目覚め金融資産の構成を変えようとしている。
(出典:日本経済新聞)
記事によると現預金を取り崩して投資に回している動きがみられるとのこと。
これは一見、良い傾向にも思えます。
しかし、アンケートの中で40代の男性が「消費を抑えてでも投資に回しお金を働かせている」と回答。
実際、「消費を抑えてでも投資にお金回す」、こう考えている人は少なくないでしょう。
物価高と賃金停滞の中、個人レベルでは合理的な判断です。
しかし、GDPの5割超を占める個人消費が減少することは、日本全体で考えればマイナス要因。
これは「合成の誤謬」と呼ばれる現象で、個人が合理的な行動をとっても多くの人が同じ行動をとることによって、全体としては悪い状態になること。
つまり、国が投資を奨励すればするほど、消費が冷え込み、経済は活性化どころか停滞するという皮肉な現象が起こってしまうのです。
日本の本質的な問題は「インフレ」ではなく「賃金が上がらない」こと
ここ数年「物価が高くなった」と感じることが多くなりました。
現在の日本のインフレ率はおよそ3%程度。
食料品など特定のものが大きく値上がりするのは困りますが、国全体の経済から見ると年間3%程度の物価上昇は大きな問題ではありません。
逆にデフレ(物価が下がる状態)は経済が縮む“最悪”の状態。
ゆるやかなインフレは経済成長に必要で、日本銀行(日銀)も「年2%の物価上昇」を目標にしています。
日本の本当の問題は「物価上昇に賃上げが追いついていない」こと。
物価の変動を反映した実質賃金は3年以上マイナス。

ボーナスなどの不定期な収入がある月はプラスになることもありますが、基本的な流れとしては私たちの賃金は物価ほど上がっていません。
つまり、給料が少し上がっても物価の上昇分を差し引くと、実質的な生活は苦しくなっている状態。
さらに、預貯金の金利は依然として低く、メガバンクの定期預金金利は年0.275%。
物価が3%上がっているのに金利が0.275%では、資産が現預金に偏っていると実質的に目減りする計算になります。
こうした状況で、将来不安から資産運用を始める人が増えるのは自然な流れ。
しかし、国全体で見ると「消費を減らして投資に回す」動きが広がり、結果として経済を冷やしてしまう。
経済が冷え込むことで、さらに給与が上がりにくい状況を生み出している状態。
つまり、投資に目覚める国民が増えるほど、自らの首を絞めている構造。
この構造に気づいている人は少ないため、さらに消費を抑えてでも投資額を増やすという悪循環に陥ってしまっています。
日本に必要なのは「金融教育」ではなく「経済対策」
上記のような悪循環から抜け出すために本来、国(政府)がやるべきことは実質賃金が上がるように経済を活性化させること。
今やるべきことは金融教育を強化して投資を促すことではなく、“働く人の収入”を増やす政策です。
国民が安心して働くことにより給料が上がり、その結果として消費が増える「良い流れ」を作ることこそ国(政府)の仕事。
現代の日本人が豊かな生活を享受できているのは、勤勉に働く人々がいるから。
誰かが道路を整備し、食料や製品を作り、商品を販売し、ゴミを回収する。 そうした「実業」に支えられて、私たちは豊かな生活を送ってきました。
ところが今、「働くより投資で稼ぐ方がスマート」といった風潮が広がっています。
しかし、投資だけで国は成り立ちません。
実業があってこそ投資も成り立つのです。
では、働く人の賃金を上げるにはどうすればよいのでしょうか?
答えはシンプルで、国民の可処分所得を増やして消費を活性化することです。
給付付き税額控除のような回りくどい制度ではなく、即効果が出る下記のような経済対策を行うべき。
- 消費税の減税・廃止
- 「年収の壁」引き上げ
消費税は最低でも一律5%に引き下げてインボイスを廃止すれば、中小企業の負担が軽くなり賃上げにもつながります。
また、「年収の壁」を引き上げれば、庶民の可処分所得が増えて消費が拡大します。
金融教育を強化して資産運用を促すのは、経済が活性化して日本人が豊かさを取り戻してからで十分。
なお、消費税の減税などの話をすると「財源が~!」とザイム真理教の信者たちが騒ぎ立てます。
国債を発行して減税することにより消費が拡大してGDPが増えれば、税収が増えます。
結果的に国債発行額が減る形で財政健全化にもつながるでしょう。
つまり、経済が活性化すれば国(政府)の財政も健全化する!
まさに「経済あっての財政」なのです。
まとめ

国(政府)は「貯蓄から投資へ」を掲げ、資産運用立国を目指しています。
投資による資産効果で日本経済は活性化するという専門家もいますが、経済が冷え込む中で投資にお金を回す人が増えると、日本経済を更に停滞させる要因になります。
日本人が本当に豊かになるために必要なのは、「投資教育」ではなく働く人の収入を増やす「経済対策」。
日経のアンケートに「誰もが投資をしないと生計を立てられないなら社会そのものに問題がある」という回答がありましたが、まさにその通り。
金融教育を強化して資産運用を促すのは、経済が活性化して日本人が豊かさを取り戻してからで十分です。