日本国内で物価上昇による生活費負担が増している中で、円安の流れが止まりません。
ついに1ドル=154円を突破する円安・ドル高となり、約34年ぶりの円安水準を更新しました。
このまま円安が進行すればインフレが一層進むことが懸念されので、なんとかして欲しいと思っている方も多いでしょう。
そこで今回の記事では、「為替介入や利上げで円安の流れは阻止できるのか?」について解説します。
これ以上の物価高に耐えられないと思っている方は参考にしてください。
なお、今回の記事の内容を聞き流したい方は以下の動画をご覧ください。
約34年振りの円安ドル高水準
2024年4月19日のニューヨーク外国為替市場で円相場は1ドル154円60銭台まで値下がりました。
1990年6月以来、およそ34年ぶりの円安ドル高水準です。
円安ドル高の大きな要因は、想定以上に米国経済が堅調で継続する物価上昇が確認され、早期利下げ観測が後退し米国の長期金利が上昇したから。
日本銀行はマイナス金利政策を解除しましたが「当面、緩和的な金融環境が継続する」としているため日米の金利差が改めて意識され、ドルを買って円を売る動きが一段と強まりました。
円安の流れを止めるために為替介入や利上げが注目されていますが、為替介入や利上げで円安の流れは阻止できるのでしょうか?
円買いの為替介入の効果は高くない?
鈴木財務大臣は「行き過ぎた動きに対してはあらゆる手段を排除することなしに適切に対応を取っていきたい」と口先介入を繰り返しますが、全く効果なしの状態。
そのような状況の中、為替介入がいつ行われるのかに注目が集まっています。
為替介入をすれば、現在の円安の流れを止めることはできるのでしょうか。
日本単独の為替介入(円買い)では短期的には円高に振れることはあっても、根本的に円安を阻止することはできないでしょう。
円安を阻止できない理由は日本の外貨準備高が限度だから。
【外貨準備とは?】
通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産です。
わが国では、財務省(外国為替資金特別会計)と日本銀行が外貨準備を保有しています。
(出典:日本銀行)
円高を阻止する円売り介入であれば、日銀が円を刷ってドルを買えばいいので、理論上無限に円を売ってドルを買うことが可能。
しかし、円買い介入ではドルを売って円を買うことになるので、原資は約1.3兆ドル(約199兆円)の外貨準備に限られます。
外貨準備が減っていくと介入の限界が見え始めるためかえって投機筋の円売りを誘発しかねないとの見方もあるので、一層の円安を誘発する可能性すらあるでしょう。
また、2024年3月末時点の外貨準備高は1兆2906億ドル(およそ199兆円)。
詳細は公表されていませんが、日本の外貨準備の8割程度は米国債だといわれています。
仮に、為替介入のために外貨準備の米国債を売り価格が下がれば、米国の長期金利が上昇することで日米の金利差が開き、更なる円安要因になってしまいます。
以上の観点から日本単独の為替介入では、円安の流れを止める大きな効果は期待できないでしょう。
日本経済は急速な利上げに耐えられる状況ではない
円安を阻止するために日本銀行(日銀)による金融緩和政策を転換して利上げすべきという論調もあります。
日銀の植田総裁も円安の加速で輸入品の価格が上がり、日銀が追加利上げの判断のうえで重視する基調的な物価上昇に影響を及ぼす事態になれば、追加利上げも辞さない構えを見せました。
しかし、拙速な金利引き上げは避けるべきでしょう。
現状の日本は金利を上げられる経済状態にはありません。
金利を上げる目的は景気が加熱している状況下で世の中に出回るお金の量を減らすことです。
しかし、現状の日本は経済が過熱しているような状況ではありません。
金利を上げれば世の中に出回るお金の量が減り、日本経済は更に停滞します。
金利を上げれば短期的には円高に振れる可能性はありますが、景気が失速するので最終的には緩和状態に逆戻りすることになってしまうでしょう。
高い賃上げ率が注目されていますが、好調な業績を維持しているのは大企業だけ。
一部好調な中小企業もありますが、大半の中小企業は大企業のように賃上げを継続できる状況ではないでしょう。
実際、実質賃金は23ヶ月連続でマイナス。コストプッシュ型のインフレにより個人消費は冷え込んでいる状態。
日本経済全体の状況を考慮すれば、日銀が円安阻止のため大きく政策金利を引き上げられる状態にはありません。
根本的な円安要因を取り除く方策とは?
では、円安を阻止する方法はないのでしょうか?
円安を食い止めるためにはその場しのぎの対処ではなく、根本的に円安要因を取り除くことが必要です。
では、円安の根本原因はどこにあるのか?
為替相場で円安が進行している大きな要因は日本とアメリカの金利差。
日本とアメリカの金融政策には下記のような差があります。
- 米国:インフレを抑制するために金利を上げる
- 日本:デフレ脱却のために金利を低く抑える
米国はコロナ禍から立ち直り、新型コロナやロシアによるウクライナ侵攻による供給制約という要因もありますが、景気が過熱してインフレが進行しています。
そのインフレを抑えるために金利を上げている状態。
一方、日本はコロナ禍から立ち直れていない状況で、経済は疲弊したまま。
日銀が金融緩和で景気を下支えしている状態。
因みに、現状の日本のインフレは海外から輸入する燃料や原材料価格の上昇が原因のコストプッシュ型で構造的には不況(デフレ)の状態。
米国のように金利を上げるような状況ではありません。
為替市場では金利の高い通貨の方が買われる傾向があるので、米ドルが買われて日本円が売られることにより円安ドル高が進行しています。
日銀が完全に金融緩和を止めるためには日本の景気を浮上させる必要があります。
バブル崩壊後の約30年間、日本経済は低迷を続けてきました。
最近では、2014年に5%から8%、2019年には8%から10%へと2度の消費増税が行われ、更にコロナの蔓延で日本経済は瀕死の状態。
日銀の黒田前総裁は2013年から日本経済を浮上させるべく、消費者物価の2%上昇を目指して緩和政策を継続してきました。
しかし、中央銀行の金融緩和政策だけでは景気を浮上させることはできません。
これは日銀が10年間という長期に渡り金融緩和を続けてきても日本の景気が浮上しなかったことで証明済み。
では、どのように日本の景気を浮上させるべきなのか?
そのヒントはアベノミクスの失敗にあります。
第2次安倍政権において、安倍晋三首相(当時)は下記「3本の矢」を柱とする経済政策を行い日本経済を立て直そうとしました。
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政出動
- 民間投資を喚起する成長戦略
しかし、アベノミクスは失敗しました。
失敗の要因は、1本目の矢である大胆な金融政策は行われましたが、2本目の矢である機動的な財政出動が行われなかったから。
財政出動が行われなかっただけでなく、二度に渡って消費税増税まで行われ、日本経済は更に弱体化。
瀕死の状態である日本の景気を浮上させるには、大胆な金融緩和を行いつつ積極的に財政を出動し、個人や民間企業がお金を使う状況を作り出す必要がありました。
しかし、バブル崩壊後の30年間行われたきたことは全く真逆の緊縮財政。
国債残高が増えれば「日本は財政破綻する」や「ハイパーインフレが起こる」などといった誤った考え方が日本に蔓延してプライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視してきました。
緊縮財政が行われ続けたことにより日本経済は疲弊し、2年間で2%のインフレ目標を達成する予定だった日銀は10年以上も金融緩和を継続することになっています。
日本経済復活には金融政策と財政政策の両輪が必要
景気が悪い時に個人や企業が節約するのは、非常に合理的なこと。
景気が悪い状況下では個人は節約し、需要が停滞している中で企業は設備投資を控えます。
経済が停滞している状況下で、お金を使えるのは国(政府)しかありません。
国(政府)の大胆な財政出動を呼び水として、個人や企業が積極的にお金を使う状況を作り出す必要があります。
財政出動の財源は何か?それは国債です。
日本(政府)の国債残高は1000兆円を超えており、このままでは財政破綻すると主張する方がいますが、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはありません。
財務省も外国格付け会社宛意見書要旨で「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」としています。
よって、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することでデフレ不況を脱する必要があります。
自国通貨建ての国債を発行している国の財政破綻(デフォルト)はないので、インフレ率を目標に財政出動すべきです。
消費税を廃止してデフレ脱却を目指す
国債を発行し、何を行うべきか?
真っ先に行うべき政策の1つが、消費税の廃止です。
消費税を廃止して消費が増えれば、経済は活性化します。
経済が活性化して国内の需要が増えれば、企業は設備投資を増やすでしょう。
個人も企業もお金を使うようになれば、更に経済は活性化します。
上記のような好循環が発生すれば、企業は儲かるので従業員の給与も上がるでしょう。
給料が上がって消費が更に活性化すれば、デフレを脱してインフレになります。
需要が増えることによるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれ、経済が好循環する良いインフレです。
ディマンドプルインフレにより物価が上がるようになれば、日銀(日本銀行)による金融緩和政策の出口も見えてきます。
更に経済の好循環が続けば、法人税や所得税の税収が増え、結果的にPB(プライマリーバランス)黒字化も達成できる可能性があるでしょう。
まとめ
残念ながら今回の円安は為替介入や金利の引き上げで阻止することはできません。
為替介入(円買い)は外貨準備高が限度であり、金利については引き上げられる状況に今の日本経済はありません。
この状況を打開するには、政府が間違った政策(緊縮財政)を転換する必要があります。
我々国民も現状の日本で行うべき政策は緊縮財政ではなく積極財政であると理解し、財源は国債だと強く日本の政治に求めていくべきです。
緊縮財政がこれ以上続けば、日本国力の弱体化が引き返せないポイントまで進んでしまう可能性もあります。