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【悪い円安】日本銀行は金融緩和政策を変更すべき?


日本銀行(日銀)が4月27~28日に開いた金融政策決定会合で、大規模緩和を維持する方針を決めたことにより、為替相場は1ドル130円台に突入して更に円安が進みました。

 

また、日銀は10年物国債を0.25%の利回りで無制限に買い入れる指し値オペ(公開市場操作)を毎営業日実施することも発表しました。

 

悪い円安が進行しているのは頑なに緩和政策を続ける日銀のせいという論調がありますが、それは見当違い。

 

現状、日銀は安易に金融緩和政策を変更したり、止めたりすることはできません。

 

今、日銀が金融政策を転換してしまったら日本の景気は更に悪化してしまいます。

 

今回の記事では、下記ポイントについて解説します。

  • 悪い円安が進行する理由とは?
  • なぜ、日銀は金融緩和を止められないのか?
  • 悪い円安を止めるための対策とは?

 

 

悪い円安が進行する理由とは?

為替相場で円安が進行している理由は、日本とアメリカの金利差。

 

日本とアメリカの金融政策には下記のような差があります。

  • 米国:インフレを抑制するために金利を上げる
  • 日本:デフレ脱却のために金利を低く抑える

 

米国はコロナ禍から立ち直り、新型コロナによる供給制約という要因もありますが、景気が過熱してインフレが進行しています。

 

そのインフレを抑えるために金利を上げている状態。

 

一方、日本はコロナ禍から立ち直れていない状況で、経済は疲弊したまま。

 

日銀が金融緩和で景気を下支えしている状態です。

 

為替市場では金利の高い通貨の方が買われる傾向があるので、米ドルが買われて日本円が売られることにより円安ドル高が進行しています。

 

円安は輸出企業が多い日本にとってメリットがあるという側面がありますが、資源や食料などの多くを輸入に頼っている日本にとっては、輸入品の価格が上がるというデメリットも発生します。

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現状の物価高は、景気が上がることによる需要増が原因ではなく、輸入物価が上がることが原因。

 

つまり、コストプッシュ型のインフレ

 

コストプッシュ型のインフレでは、日本人の給料は上がらないので、生活が苦しくなって買い控えが発生します。

 

買い控えが発生すれば、景気は減速することに。

 

インフレと同時に景気減速が進む「スタグフレーション」が発生しつつある状態です。

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日銀は金融緩和を止めるべき?

スタグフレーションが発生しつつある日本で物価高の原因の1つである日米金利差を縮小するために日銀は金融緩和を止めるべきなのでしょうか?

 

仮に日銀が現状の金融政策を変更して金利を上げたら、更に日本の景気は減速するでしょう。

 

例えば、日銀が金利を上げれば住宅ローン金利の上昇で住宅が売れなくなる可能性があります。

 

また、企業が借入をする際の金利も上がるので、設備投資も減ってしまう。

 

金利の上昇により経済の血液である「お金」の回りが悪くなれば、更に日本経済が悪化してしまうことは明らか。

 

つまり、景気が低迷する現在の日本では、金融緩和を止められない状況にあります。

 

実際、日銀では現在の物価上昇がコスト要因による一時的なもので「持続しない」と見ていて、持続的に物価が上がっていくために必要な賃上げが依然として広がりを欠いていると判断しています。

 

 

悪い円安を止める対策は積極財政

では、現在の悪い円安を止めるためにどのような対策をとるべきなのでしょうか。

 

日銀が金融緩和を止めるためには日本の景気を浮上させる必要があります。

 

バブル崩壊後の約30年間、日本経済は低迷を続けてきました。

 

最近では、2014年に5%から8%、2019年には8%から10%へと2度の消費増税が行われ、更にコロナの蔓延で日本経済は瀕死の状態。

 

日銀の黒田総裁は2013年から日本経済を浮上させるべく、消費者物価の2%上昇を目指して緩和政策を継続してきました。

 

しかし、中央銀行の金融緩和政策だけでは景気を浮上させることはできません

 

これは日銀が9年間という長期に渡り金融緩和を続けてきても日本の景気が浮上しなかったことで証明済み。

 

アベノミクスの失敗が金融緩和を止められない原因

第2次安倍政権において、安倍晋三首相(当時)は下記「3本の矢」を柱とする経済政策を行い日本経済を立て直そうとしました。

  1. 大胆な金融政策
  2. 機動的な財政出動
  3. 民間投資を喚起する成長戦略

 

しかし、アベノミクスは失敗しました。

 

その理由は、1つ目の矢である大胆な金融政策は行われましたが、2つ目の矢である機動的な財政出動が行われなかったから。

 

財政出動が行われなかっただけでなく、二度に渡って消費税増税まで行われ、日本経済は更に弱体化。

 

瀕死の状態である日本の景気を浮上されるには、大胆な金融緩和を行いつつ積極的に財政を出動し、個人や民間企業がお金を使う状況を作り出す必要がありました。

 

しかし、この30年間行われたきたことは全く真逆の緊縮財政

 

国債残高が増えれば「日本は財政破綻する」や「ハイパーインフレが起こる」などといった誤った考え方が日本に蔓延してプライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視してきました。

 

緊縮財政が行われた続けたことにより日本経済は疲弊し、2年間で2%のインフレ目標を達成する予定だった日銀は9年間も金融緩和を継続することになっています。

 

日本以外の先進国でコロナ禍以降に経済が立ち直っている理由は、減税や思い切った財政出動を行って国民経済を助けたため

 

インフレが進行しているアメリカはコロナ対策として約800兆円規模の財政出動を行っています。

 

 

積極財政の財源は国債

積極的な財政出動の話が出ると、税収が落ち込んでいる日本で「財源はどこあるのか」などの論調が出てきます。

 

積極財政の財源は国債の発行です。

 

自国通貨建ての国債を発行できる日本の財政破綻(デフォルト)はありません。

 

これは財務省のHPにも下記のように掲載されています。

日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない

www.mof.go.jp

 

円建ての国債を発行することによる日本の財政破綻はありませんが、無限に国債を発行できるわけではありません。

 

国債を大量に発行して財政出動を行えば、過度にインフレが進んでしまいます。

 

つまり、国債を発行して財政出動する際に制約となるポイントは国債の残高ではなくインフレ率

 

現在の日本では、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することでデフレ不況を脱する必要があります。

 

大胆な財政出動によってインフレ率が3~4%になれば、日銀が金融緩和で金利を低く抑える必要もなくなります。

 

また、財政出動により景気が上向けば、税収も増えて結果的にPB(プライマリーバランス)の黒字化が達成できる可能性もあるでしょう。

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まとめ

悪い円安が進み、個人でできる対策として外貨建ての資産を持つことも重要です。

 

確かに日本円のみに資産が集中するのは危険であることは間違いありません。

 

しかし、ミクロの視点だけでなく、マクロ的な視点で考えて円安が進んでいる原因を解決する必要があります。

 

このまま「悪い円安」が続けば、更に日本は弱体化していきます。

 

現状の日銀は「進むも地獄、退くも地獄」という八方塞がりの状態。

 

緩和政策を止めれば円安の動きは抑えられても国内景気が悪くなる。一方、緩和を続ければ、景気を下支えしても更なる円安の進行があり得る状況。

 

この状況を打開するには、政府が間違った政策(緊縮財政)を転換する必要があります。

 

我々国民も現状の日本で行うべき政策は緊縮財政ではなく積極財政であると理解し、財源は国債だと強く日本の政治に求めていくべきです。

 

今年の夏に参議院選挙がありますが、選挙が終われば最大3年間は国政選挙がありません。

 

次回の選挙で我々国民が民意を示さなければ、緊縮財政の継続という暗黒の3年間が待っている可能性があります。

 

緊縮財政がこれ以上続けば、日本国力の弱体化が引き返せないポイントまで進んでしまう可能性もあります。