海外のインフレや悪い円安をきっかけに、日本の物価も上がり始めています。
日本では長い間デフレが続き、物価が停滞してきました。
しかし、現状では給料が上がらない中で、物価が上がる厳しい状況。
日本は約30年間も経済が停滞する「失われた30年」が続き、物価も上がらない状態が続いてきました。
日本が「失われた30年」から脱却する術はないのでしょうか?
今回は、以下の本を参考に日本の物価が停滞した理由と、その解決策について考えてみたいと思います。
『安いニッポン「価格」が示す停滞 中藤玲』
安いニッポンの現状とは?
日本に住んでいて海外旅行や海外出張に行く機会がなければ、日本の経済や物価が停滞していることを感じることは難しいかもしれません。
本書では安いニッポンの事例として、下記のような海外との価格比較が紹介されています。
世界で最も安い日本のディズニーランド
東京ディズニーランドといえば、日本の中では勝ち組のテーマパーク。
インバウンドの効果もあり、世界と比べて入場料が安いということはないと思っていました。
しかし、本書によると世界の中のディズニーランドで最も入場料が安いのが東京ディズニーランド。
2021年2月時点では日本の入場料は8200円。
しかし、アメリカ・フロリダ州は約1万4500円。カリフォルニア州やパリ、上海は1万円超。日本より狭い香港でも8500円。
更に、2020年3月までは7500円と断トツに日本のディズニーランドが安かったようです。
日本も現在は需要に応じて価格を柔軟に変える「ダイナミック・プライシング(価格変動制)」を導入していて7900円~9400円。
世界から見れば日本のディズニーは安い。しかし、日本人から見ると安くはないという現実があります。
仮に関東圏外から東京ディズニーランドに行こうと思えば、入場料以外に交通費と宿泊費がかかります。
家族4人で遊びに行けば、10万円を超える出費となる可能性もあり、平均的な年収の日本人にとっては年に何回も出せる金額ではないでしょう。
ダイソーが100円均一なのは日本だけ
ダイソーなどの100円均一ショップは、デフレに慣れた日本人の強い味方。
実は、世界に展開しているダイソーの海外店は100均ではないようです。
例えば、アメリカは1.5ドル(約160円)。
また、タイは60バーツ(約210円)、フィリピン88ペソ(約190円)という事例が本書には掲載されています(2021年1月下旬の為替レート)。
100均なのは日本だけ。
アメリカだけでなく、タイやフィリピンにまで価格で負けています。
回転ずしは日本が最安値
本書には回転ずしも日本が最安値だと紹介されています。
最近では、スシローが最低価格を一皿100円から120円に値上げすると発表がありました。
しかし、世界の回転ずしの価格はアメリカが2.6~3ドル(330~381円)、台湾は38台湾ドル(約164円)と日本が最安値(2022年5月下旬の為替レート)。
日本に住んでいると感じませんが、世界と比べると日本の商品の安さが際立ちます。
更に私が異常だと思うのが、日本では100均も回転ずしも40年以上同じ値段だということ。
私が子供のころは、親が若い頃のそばの値段が一杯数十円や大卒の初任給が数万円という話を聞いて驚いたものです。
当時は、それだけ物価が上がり給与も上がるような経済成長があったということ。
気になって大卒初任給の推移を調べてみると、1968年に約3万円だった大卒初任給は、90年代以降に20万円前後で頭打ち。
(出典:年次統計)
大卒初任給の推移から日本は90年代以降の約30年間、全く成長していないという異常な状態ということが分かります。
商品価格の推移だけでなく、給与の推移にも「失われた30年間」が数字として表れています。
安いことはいいことか?
日本は給料が低くてもモノの値段が安くなるデフレが続いているから問題ない、と考えてしまう方もいるでしょう。
しかし、その考え方は間違っています。
デフレが進むと、デフレスパイラルに陥る可能性があります。
デフレスパイラルとは、下記のような経済が収縮してしまうような状態。
商品が売れないため、企業は値下げをします。すると、利益が減るため、企業は社員の給与を減らします。
給与が減ると、消費が落ち、更に商品が売れなくなる。そして企業が更に値下げするという形で悪循環が続いていきます。
デフレスパイラルを図にすると下記の通り。
商品が売れない
⇓
値下げする
⇓
企業の利益が減る
⇓
従業員の給与が減る
⇓
更に商品が売れなくなる
⇓
更に値下げする
⇓
更に企業の利益が減る
⇓
更に従業員の給与が減る
⇓
・・・以下、上記の繰り返し
実際、デフレに苦しんだ日本の実質賃金の国際比較を確認すると、下図の通り、諸外国に比べて日本の賃金がいかに低迷しているかが分かります。
(出典:全労連)
モノの値段が安くなるデフレは消費者1人ひとりにとってはいいことです。
しかし、日本国民全員が安くなるまでモノを買わなくなったら、上記のようなデフレスパイラルが発生し、結果的には日本経済全体が縮小するという悪い状態に陥ってしまう。
これを合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)といいます。
合成の誤謬とは、「個人が合理的な行動をとっても多くの人が同じ行動をとることによって、全体としては悪い状態になること」です。
爆買いの理由は「品質がいいから」ではなく「安いから」
物価が上がっている海外から見れば、更に日本の物価は安く感じるでしょう。
新型コロナが蔓延する前は外国人が日本の観光地などに押し寄せ、日本の商品を爆買いしていることが話題になりました。
インバウンドなどと横文字を使えば聞こえはいいですが、日本の商品品質が高いからだけでなく、安いから爆買いされていたという事実に驚いた方も少なくないでしょう。
外国人が商品を爆買いしているだけであれば、日本企業の業績も上がるので悪いことはありません。
しかし、安くて爆買いされているのは商品だけでありません。
土地や企業なども外国に爆買いされています。
北海道のニセコの土地が外国人に買われ、地元の人が住みにくくなったり、企業や技術も海外の企業に買われている事例が本書に載っていました。
優秀な日本の技術が海外の企業に流出すれば、今後の日本の発展にはマイナスに働くことになるでしょう。
日本の長引くデフレは経済が停滞するだけでなく、上記のような問題も抱えているわけです。
安いニッポンを脱却する方法とは?
日本がデフレ体質から脱する方法はあるのでしょうか?
安いニッポンにしてしまった原因と逆のことをすればデフレ脱却の可能性があるでしょう。
では、日本経済をここまで疲弊させてしまった原因は何か?
その原因は、プライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視して続けられてきた緊縮財政。
政府が積極的にお金を出すべき不況下で行われた政策が、馬鹿の一つ覚えのように続けられてきた緊縮財政。
景気が悪いのに消費税増税を繰り返して国民からお金を吸い上げ、更に景気は悪くなりました。
テレビなどを観ると「デフレを脱却するために、もっと個人や企業がお金を使うべきだ」というようなことを提言する経済の専門家といわれる方がいますが、全くの的外れ。
景気が悪い時に個人や企業が節約するのは、非常に合理的なこと。その逆のことを求めるのは愚の骨頂でしょう。
先述の通り、景気が悪い状況下では個人は節約し、需要が停滞している中で企業は設備投資を控えます。
経済が停滞している状況下で、お金を使えるのは国しかありません。
国の大胆な財政出動を呼び水として、個人や企業が積極的にお金を使う状況を作り出す必要があります。
財政出動の財源は何か?それは国債です。
国債をこれ以上発行すれば、日本は財政破綻(デフォルト)すると反対する方がいます。
しかし、下記記事で解説した通り、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはありません。
よって、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することでデフレ不況を脱する必要があります。
自国通貨建ての国債を発行している国の財政破綻(デフォルト)はないので、インフレ率を目標に財政出動すべきです。
消費税を廃止してデフレ脱却を目指す
国債を発行し、何を行うべきか?
行うべき政策の1つが、消費税の廃止です。
消費税を廃止して消費が増えれば、経済は活性化します。
経済が活性化して国内の需要が増えれば、企業は設備投資を増やすでしょう。
個人も企業もお金を使うようになれば、更に経済は活性化します。
上記のような好循環が発生すれば、企業は儲かるので従業員の給与も上がるでしょう。
給料が上がって消費が更に活性化すれば、デフレを脱してインフレになります。
需要が増えることによるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれ、経済が好循環する良いインフレです。
ディマンドプルインフレにより物価が上がるようになれば、日銀(日本銀行)による金融緩和政策の出口も見えてきます。
更に経済の好循環が続けば、法人税や所得税の税収が増え、結果的にPB(プライマリーバランス)黒字化も達成できる可能性があるでしょう。
まとめ
30年間も不況に苦しんできた日本を救うには、かなり積極的な財政出動が必要となるでしょう。
消費税の廃止程度の政策では、日本を浮上させるには力不足の可能性があります。
そろそろ、プライマリーバランス(PB)黒字化というバカげた目標を捨て、日本経済を立て直すことを本気で考えなければ、手遅れになってしまう可能性があります。
私たち日本国民ができることは、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはなく、財源があることを理解する。
そして、必要なところに必要な額のお金を使うように政治家に訴えることが重要。
私が一番懸念する事は、日本全体に経済成長に対する諦めの雰囲気が広がっていること。
今ならまだ間に合います。諦める必要はありません。
正しい政策が行われれば、日本全体を底上げすることができます。
日本経済復活のために夏の参議院選挙では、我々の民意を示す必要があります。