資源高と円安による物価高によりデフレが続いてきた日本でも前年同月比2%超のインフレが続いています。
更に円安の流れが止まりません。
ついに1ドル=145円を突破する円安・ドル高となり1998年以来、およそ24年ぶりの円安水準を更新しました。
このまま円安が続けば、更にインフレが進むのでなんとかして欲しいと思っている方も多いでしょう。
そこで今回は、下記ポイントについて解説したいと思います。
- 円安はいつまで続くのか?
- 為替介入や利上げで円安を阻止できるのか?
円安はいつまで続くのか?
現在のような円安はいつまで続くのでしょうか?
為替がどう動くかを正確に予想することは誰にもできません。
しかし、米国の利上げ局面が終わるまでは、現状のような大きく円安が進む傾向が続くでしょう。
つまり、米国の経済状況次第ということ。
次項以降で解説しますが、日本が為替介入や利上げをしたとしても一時的に円高に振れることはあっても、円安を防ぐことはできないでしょう。
円買いの為替介入には限界がある
先日、日本銀行(日銀)が「レートチェック」を実施し、為替介入(円買い・ドル売り)が行われるのではないかという観測がニュースになりました。
更に本日(2022年9月22日)、政府・日銀が為替介入を実施しました。
為替介入をすれば、円安を阻止することはできるのでしょうか。
日本単独の為替介入(円買い)では短期的には円高に振れることはあっても、根本的に円安を阻止することはできないでしょう。
円安を阻止できない理由は日本の外貨準備高が限度だから。
【外貨準備とは?】
通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産です。
わが国では、財務省(外国為替資金特別会計)と日本銀行が外貨準備を保有しています。
(出典:日本銀行)
円高を阻止する円売り介入であれば、日銀が円を刷ってドルを買えばいいので、理論上無限に円を売ってドルを買うことが可能。
しかし、円買い介入ではドルを売って円を買うことになるので、原資は1.3兆ドル(約190兆円)の外貨準備に限られます。
外貨準備が減っていくと介入の限界が見え始めるためかえって投機筋の円売りを誘発しかねないとの見方もあるので、一層の円安を誘発する可能性すらあるでしょう。
米国との協調介入であれば、効果が期待できるかもしれません。
米国はドルを刷って円を買うことができるので、日米による協調介入であれば理論上、介入の限度はなくなります。
しかし、米国はインフレを抑える効果があるドル高を望んでいて、協調介入は難しいとみられています。
日本経済は金利を上げられる状況ではない
円安を阻止するために日銀による金融緩和政策を転換して利上げすべきという論調もありますが、それは止めた方がいいでしょう。
現状の日本は金利を上げられる経済状態にはありません。
金利を上げる目的は景気が加熱している状況下で世の中に出回るお金の量を減らすことです。
しかし、現状の日本は経済が過熱しているような状況ではありません。
金利を上げれば世の中に出回るお金の量が減り、日本経済は更に停滞します。
金利を上げれば短期的には円高に振れる可能性はありますが、景気が失速するので最終的には緩和状態に逆戻りすることになってしまうでしょう。
日銀の黒田総裁も「金利だけで円安を止めようという話であれば、経済に大きなダメージになる」としたうえで、「金利を引き上げるつもりは全くない」と発言しています。
日本経済を回復させて緩和政策を転換する
では、円安を阻止する方法はないのでしょうか?
円安を食い止めるためにはその場しのぎの対処ではなく、根本的に円安原因を取り除くことが必要です。
では、円安の根本原因はどこにあるのか?
為替相場で円安が進行している大きな理由が日本とアメリカの金利差。
日本とアメリカの金融政策には下記のような差があります。
- 米国:インフレを抑制するために金利を上げる
- 日本:デフレ脱却のために金利を低く抑える
米国はコロナ禍から立ち直り、新型コロナやロシアによるウクライナ侵攻による供給制約という要因もありますが、景気が過熱してインフレが進行しています。
そのインフレを抑えるために金利を上げている状態。
一方、日本はコロナ禍から立ち直れていない状況で、経済は疲弊したまま。
日銀が金融緩和で景気を下支えしている状態。
為替市場では金利の高い通貨の方が買われる傾向があるので、米ドルが買われて日本円が売られることにより円安ドル高が進行しています。
日銀が金融緩和を止めるためには日本の景気を浮上させる必要があります。
バブル崩壊後の約30年間、日本経済は低迷を続けてきました。
最近では、2014年に5%から8%、2019年には8%から10%へと2度の消費増税が行われ、更にコロナの蔓延で日本経済は瀕死の状態。
日銀の黒田総裁は2013年から日本経済を浮上させるべく、消費者物価の2%上昇を目指して緩和政策を継続してきました。
しかし、中央銀行の金融緩和政策だけでは景気を浮上させることはできません。
これは日銀が9年間という長期に渡り金融緩和を続けてきても日本の景気が浮上しなかったことで証明済みです。
アベノミクスの失敗要因が金融緩和を止められない原因
第2次安倍政権において、安倍晋三首相(当時)は下記「3本の矢」を柱とする経済政策を行い日本経済を立て直そうとしました。
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政出動
- 民間投資を喚起する成長戦略
しかし、アベノミクスは失敗しました。
失敗の要因は、1本目の矢である大胆な金融政策は行われましたが、2本目の矢である機動的な財政出動が行われなかったから。
財政出動が行われなかっただけでなく、二度に渡って消費税増税まで行われ、日本経済は更に弱体化。
瀕死の状態である日本の景気を浮上されるには、大胆な金融緩和を行いつつ積極的に財政を出動し、個人や民間企業がお金を使う状況を作り出す必要がありました。
しかし、この30年間行われたきたことは全く真逆の緊縮財政。
国債残高が増えれば「日本は財政破綻する」や「ハイパーインフレが起こる」などといった誤った考え方が日本に蔓延してプライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視してきました。
緊縮財政が行われた続けたことにより日本経済は疲弊し、2年間で2%のインフレ目標を達成する予定だった日銀は9年間も金融緩和を継続することになっています。
日本以外の先進国でコロナ禍以降に経済が立ち直っている理由は、減税や思い切った財政出動を行って国民経済を助けたため。
インフレが進行しているアメリカはコロナ対策として約800兆円規模の財政出動を行っています。
日本も大胆な財政出動によってインフレ率が3~4%になれば、日銀が金融緩和で金利を低く抑える必要もなくなり、円安の進行を阻止することができるでしょう。
エネルギー価格高と円安による輸入物価の高騰が原因であるコストプッシュ型のインフレが進む現状で積極的に財政出動すると、更なるインフレを誘発する可能性もあります。
現在のようなコストプッシュ型のインフレが進む状況下では、積極的な財政出動に反対する人も多いでしょう。
しかし、円安の根本的な原因を取り除くためにも積極的な財政出動による日本経済の底上げが必要です。
現金(日本円)に資産を集中させない
円安を阻止するためには日本政府による政策の転換が必要ですが、個人レベルで円安の状況に対処する方法はないのでしょうか。
やはり、資産を円に集中させずに分散することが先決。
今後の展開を正確に予想することは誰にもできませんが、資産が現金(日本円)に集中している状態は非常に危険。
このままの政治状況が続ければ、日本の国力はますます衰退して円の価値が更に下がっていく可能性があります。
現状のドル円相場が円高だったと思えるほどの円安が進むかもしれません。
更に円安が進めば、景気が悪いのに物価が上がるスタグフレーションが長期化する可能性もあるでしょう。
当ブログでこれまでおすすめしてきたインデックス投資などを活用して、資産を現金(日本円)以外にも分散させることが重要です。
まとめ
残念ながら今回の円安は為替介入や金利の引き上げで阻止することはできません。
為替介入(円買い)は外貨準備高が限度であり、金利については引き上げられる状況に今の日本経済はありません。
この状況を打開するには、政府が間違った政策(緊縮財政)を転換する必要があります。
我々国民も現状の日本で行うべき政策は緊縮財政ではなく積極財政であると理解し、財源は国債だと強く日本の政治に求めていくべきです。
緊縮財政がこれ以上続けば、日本国力の弱体化が引き返せないポイントまで進んでしまう可能性もあります。
また、個人レベルでは現金(日本円)に資産を集中させることは危険と認識し、外貨建ての資産を持つなどの対策を行うことが重要です。
ミクロの視点とともにマクロの視点で考えて円安が進んでいる原因を解決する必要があります。