現役投資家FPが語る

20年以上の投資経験がある現役投資家FPが「人生100年時代」の資産運用や公的年金など「お金」の知恵について語ります

【比較シミュレーション】個人年金保険(トンチン年金)VS公的年金の繰り下げ受給【書評】


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老後2000万円問題」が話題になり、公的年金を補完するために個人年金保険の活用をすすめている本などがあります。

 

公的年金だけでは老後資金が不足するのであれば、「個人年金保険で準備しないと」と考えている方もいるかもしれません。

 

しかし、個人年金保険は低金利が続いていることもあり、老後資金の準備に活用することはおすすめできません

 

では、老後資金の不足を補うにはどのような方法があるのでしょうか?

 

実は、公的年金を繰り下げ受給する方が個人年金保険に加入するより有利です。

 

今回は、下記の本の中から終身型の個人年金保険と公的年金の繰り下げ受給の比較シミュレーションについて解説したいと思います。

『人生100年時代の年金戦略』

 

老後資金に不安を感じている方は、参考にしてください。

 

  

終身年金型の個人年金保険(トンチン年金)とは?

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個人年金保険とは、保険料払込期間(60歳や65歳までなど)に保険料を支払うことで、契約時に定めた年齢から一定期間または一生涯にわたって年金が受け取れる貯蓄型の保険。

 

一般的な個人年金保険は、年金の受取期間が10年~15年程度の確定年金で年金を受け取り始めて10年~15年で年金は終了します。

 

しかし、個人年金保険の中には、年金を一生涯受け取れる終身年金が選択できる商品があります。

 

長生きするほど有利になる終身年金型の個人年金保険(トンチン年金)は人気のある商品の1つ。

 

一生涯年金を受け取れるのであれば、「人生100年時代」の日本にとっては非常にありがたいと感じる方も多いはず。

 

しかし、下記記事で解説した通り、終身年金型の個人年金保険にはいくつものデメリットがあり、おすすめできません。 

www.fpinv7.com

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個人年金保険VS公的年金の繰り下げ受給

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本書の中では、終身型の個人年金保険に加入するよりも公的年金を繰り下げ受給した方が有利と紹介されています。

 

実際に、それぞれシミュレーションしたみたいと思います。

 

終身年金型の個人年金保険シミュレーション

本書の中で紹介されている代表的な個人年金保険(終身年金タイプ)の契約例は下記の通り。

 

個人年金保険(終身年金タイプ)

被保険者:50歳(男性)
保険料払込期間:70歳
年金受取開始年齢:70歳
月額保険料:50,000円

年金額:60万円

 

50歳から毎月5万円の保険料を70歳まで20年間支払うことで支払総額は1,200万円です。

 

年金は70歳から受け取る契約なので90歳まで生きれば受取総額は1,200万円(60万円×20年)となり、元を取れます。

 

長生きリスクに備えるというコンセプトはアリですが、大手保険会社が割高な手数料を取る仕組みのせいかトンチン年金は商品としてはそれほど有利ではありません。

 

公的年金の繰り下げ受給シミュレーション

続いて、公的年金の繰り下げ受給をシミュレーションしたみたいと思います。

 

公的年金の繰り下げ条件

公的年金額:240万円(65歳時点)
繰り下げ期間:70歳までの5年間
年金増加額:約100万円

 

65歳の男性が上記の条件で繰り下げを選んだとき、繰り下げ中の5年間もらわない年金額の合計は1200万円。

 

トンチン年金の保険料と同額。

 

一方で繰り下げによる増加額は年約100万円(240万円の42%)。

 

もらい損ねた年金1200万円は受給開始から12年で元が取れます。年金の受給開始が70歳なので81歳時点。

 

損益分岐点は、個人年金保険が90歳と公的年金の繰り下げ受給が81歳で、公的年金の繰り下げ受給の方が有利ということに。 

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公的年金はインフレにも対応

更に、公的年金はインフレが起きた場合でも、ある程度それに合わせて増額されます。

 

一方、個人年金保険(トンチン年金)はインフレによる増額はなく、物価が上がると価値が実質的に目減りします。

 

「人生100年時代」におすすめできるのは、公的年金の繰り下げ受給ということになります。

 

結論としては、個人年金保険に支払う保険料を50歳から貯蓄する。

 

そして、65歳から5年間の繰り下げ時の生活費として、貯蓄を活用する方が合理的ということになります。

 

 

公的制度の活用が優先

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本書でも指摘されていますが、様々な民間金融商品を選ぶ場合、大切なポイントは下記の通り。

 

加入を検討している民間の金融商品と似た仕組みの公的制度、例えば公的年金や公的医療保険、雇用保険などの内容をまず知る。

 

その上で、どうしても不足だと思ったときだけ民間の商品(通常は公的な仕組みよりも割高で不利)を使うという発想が重要。

 

例えば、民間の生命保険は公的年金(遺族基礎年金や遺族厚生年金)で不足する部分を補うために加入する。

 

また、民間の医療保険についても、公的医療保険制度の内容(高額療養費など)を確認し、それでも必要だと思える場合に加入するということです。

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まとめ

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老後資金の問題を切り口に民間金融商品の営業を受けることも多いでしょう。

 

しかし、公的な制度がある場合、公的な制度の活用を優先し、それでも上乗せが必要と判断できるときのみ民間の金融商品を検討する方が賢明です。

 

間違っても、公的な制度を活用せずに民間の金融商品を優先するような愚を犯さないように気を付けてください。