先日、日銀(日本銀行)が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)を再修正しました。
長期金利の厳格な上限をなくし、1%を超える金利上昇を認めることで円安に歯止めがかかるとの見方もありましたが、円の対ドル相場はYCC修正後にむしろ下落。
一時、1ドル=151円台後半をつけました。
植田和男総裁の緩和を継続する姿勢に「いつまで無意味な金融緩和を継続するのか?」と日銀に批判が殺到しています。
しかし、日銀を批判するのはお門違い。
現状の円安・物価高の根本原因は日銀の金融緩和政策にはありません。
日銀は金融緩和を続けたいわけではなく、止めたくても止められない状態になっているだけ。
批判の矛先を向ける方向が間違っていると、いつまで経っても我々の生活はよくなりません。
そこで今回は、下記ポイントについて解説したいと思います。
- 円安・物価高を引き起こしている真の原因とは?
- 日銀が金融緩和政策を止めるための方法とは?
現状の物価高に怒りを感じている方は参考にしてください。
YCC(イールドカーブ・コントロール)とは?
日本銀行が2016年9月に導入した「長短金利操作付き・量的質的金融緩和」の枠組みの一つ。政策金利の誘導目標に加え、長期金利の誘導水準(2020年12月現在、10年国債利回りを概ねゼロ%程度に設定)を定め、その水準になるよう国債買入れを実施すること。
(出典:三菱UFJ信託銀行)
円安・物価高を引き起こしている真の原因とは?
YCC(イールドカーブ・コントロール)を再修正しても緩和政策を継続するスタンスの日銀に対して、ネット記事には下記のような書き込みがあふれています。
これまでずっと緩和し続けて日銀が言う「賃金の上昇を伴った物価上昇になってない」のにこれ以上続けても意味がない事がまだ分からないんでしょうか?
更に野党第一党の議員までもが、日銀の金融緩和政策を物価高の原因として批判しています。
多くの方が今の円安・物価高に対する怒りを日銀にぶつけていますが、怒りのぶつけ先を間違っています。
日本銀行(日銀)の金融緩和政策は失敗していませんし、的外れな政策というわけでもありません。
日銀は日本経済が停滞している中でやるべき事をやっている。
しかし、金融緩和政策だけでは景気は回復しないということ。
現状の日銀は金融緩和政策を止めたくても止められない状態に陥っているのです。
では、現在の円安・物価高の根本原因はどこにあるのか?
それは、国(政府)の財政政策の間違いにあります。
下記記事で解説した通り、政府はデフレの状況下でインフレ対策という全く真逆の政策を約30年間も続けてきました。
国(政府)の政策が間違ってきたので約30年間も日本経済は停滞。
日本のGDPは2010年に中国に抜かれ世界3位に転落しまいたが、ついにドイツにまでに抜かれ、世界4位に転落すると言われています。
このまま経済停滞が続けば、ドイツ以外の国にも追い越されていくでしょう。
後述しますが、「失われた30年」の状態を抜け出さないと、日銀が金融緩和政策を転換するのは難しい状況。
与党が頼りない時に頼みの綱である野党第一党が動画のような状態。
動画の議員のように表面的な状況しか理解できないと、頓珍漢な要求を政府に投げかけることになります。
与党・野党とも頓珍漢なので、正しい方向に議論が進むわけがありません。
日銀が金融緩和を止め金利を引き上げれば円安・物価高は収まるのか?
仮に世論に押されて日銀が金融緩和を止めれば短期的には円安の動きを抑えられる可能性があります。
しかし、長期的には景気は低迷し緩和政策に逆戻りする可能性が高いでしょう。
日銀が現状の金融政策を変更して金利を上げられるほど日本の景気は過熱しているのでしょうか。
因みに、現状の日本のインフレは海外から輸入する燃料や原材料価格の上昇が原因のコストプッシュ型で構造的には不況(デフレ)の状態。
米国のように金利を上げるような状況ではありません。
もしも、日銀が短期金利を上げれば住宅ローン金利(変動)の上昇で住宅が売れなくなる可能性があります。
また、企業が借入をする際の金利も上がるので、設備投資も減ってしまう。
金利の上昇により経済の血液である「お金」の回りが悪くなれば、更に日本経済が悪化してしまうことは明らか。
経済が悪化すれば、企業の倒産が増えて失業者が増えます。
失業者が増えるということは消費が落ちるということ。GDPの5割超を担う消費が落ち込むことにもつながります。
つまり、景気が低迷する現在の日本では、金融緩和を止められない状況にあるわけです。
日銀の金融緩和政策を出口に向かわせる方法とは?
では、日銀が金融緩和を止めるためにどのような対策をとるべきなのでしょうか。
日銀が金融緩和を止めるためには日本の景気を浮上させる必要があります。
バブル崩壊後の約30年間、日本経済は低迷を続けてきました。
最近では、2014年に5%から8%、2019年には8%から10%へと2度の消費増税が行われ、更にコロナの蔓延で日本経済は瀕死の状態。
日銀の黒田前総裁は2013年から日本経済を浮上させるべく、消費者物価の2%上昇を目指して緩和政策を継続してきました。
しかし、中央銀行の金融緩和政策だけでは景気を浮上させることはできません。
これは日銀が10年間という長期に渡り金融緩和を続けてきても日本の景気が浮上しなかったことで証明済み。
では、どのように日本の景気を浮上させるべきなのか?
そのヒントはアベノミクスの失敗にあります。
第2次安倍政権において、安倍晋三首相(当時)は下記「3本の矢」を柱とする経済政策を行い日本経済を立て直そうとしました。
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政出動
- 民間投資を喚起する成長戦略
しかし、アベノミクスは失敗しました。
失敗の要因は、1本目の矢である大胆な金融政策は行われましたが、2本目の矢である機動的な財政出動が行われなかったから。
財政出動が行われなかっただけでなく、二度に渡って消費税増税まで行われ、日本経済は更に弱体化。
瀕死の状態である日本の景気を浮上させるには、大胆な金融緩和を行いつつ積極的に財政を出動し、個人や民間企業がお金を使う状況を作り出す必要がありました。
しかし、バブル崩壊後の30年間行われたきたことは全く真逆の緊縮財政。
国債残高が増えれば「日本は財政破綻する」や「ハイパーインフレが起こる」などといった誤った考え方が日本に蔓延してプライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視してきました。
緊縮財政が行われ続けたことにより日本経済は疲弊し、2年間で2%のインフレ目標を達成する予定だった日銀は10年間も金融緩和を継続することになっています。
日本経済復活には金融政策と財政政策の両輪が必要
景気が悪い時に個人や企業が節約するのは、非常に合理的なこと。
景気が悪い状況下では個人は節約し、需要が停滞している中で企業は設備投資を控えます。
経済が停滞している状況下で、お金を使えるのは国(政府)しかありません。
国(政府)の大胆な財政出動を呼び水として、個人や企業が積極的にお金を使う状況を作り出す必要があります。
財政出動の財源は何か?それは国債です。
上記記事で解説しましたが、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはありません。
よって、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することでデフレ不況を脱する必要があります。
自国通貨建ての国債を発行している国の財政破綻(デフォルト)はないので、インフレ率を目標に財政出動すべきです。
消費税を廃止してデフレ脱却を目指す
国債を発行し、何を行うべきか?
行うべき政策の1つが、消費税の廃止です。
消費税を廃止して消費が増えれば、経済は活性化します。
経済が活性化して国内の需要が増えれば、企業は設備投資を増やすでしょう。
個人も企業もお金を使うようになれば、更に経済は活性化します。
上記のような好循環が発生すれば、企業は儲かるので従業員の給与も上がるでしょう。
給料が上がって消費が更に活性化すれば、デフレを脱してインフレになります。
需要が増えることによるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれ、経済が好循環する良いインフレです。
ディマンドプルインフレにより物価が上がるようになれば、日銀(日本銀行)による金融緩和政策の出口も見えてきます。
更に経済の好循環が続けば、法人税や所得税の税収が増え、結果的にPB(プライマリーバランス)黒字化も達成できる可能性があるでしょう。
まとめ
日銀による金融緩和政策は失敗していませんし、的外れな政策ではありません。
日本経済を復活させるには金融政策と財政政策の両輪が必要ですが、現状は金融緩和政策のみが行われている状況。
間違った政策が行われ続けてきた結果、日本経済はバブル崩壊以降の約30年間も不況に苦しんできました。
失われた30年などと言われていますが、日本経済が長期停滞している責任は政治家にあります。
日本経済を30年の不況から救い出すことよりも、次の選挙に当選することの方が重要と考える政治家が多いのが現状。
しかし、その政治家を選んできたのは我々国民。
日本経済を復活させるためには国民一人ひとりが政治に興味を持ち、日本を豊かにする政策を行う政治家を選ぶ必要があります。
そして、声を上げて政治家を育てる事も重要。
このまま間違った政策が行われれば続ければ、日本の存続さえも危うくなります。
このまま「悪い円安」が続けば、更に日本は弱体化していきます。
現状の日銀は「進むも地獄、退くも地獄」という八方塞がりの状態。
緩和政策を止めれば円安の動きは抑えられても国内景気が悪くなる。一方、緩和を続ければ、景気を下支えしても更なる円安の進行があり得る状況。
この状況を打開するには、政府が間違った政策(緊縮財政)を転換する必要があります。
我々国民も現状の日本で行うべき政策は緊縮財政ではなく積極財政であると理解し、財源は国債だと強く日本の政治に求めていくべきです。