長らくデフレに苦しんできた日本が、インフレに苦しむようになっています。
エネルギー価格の高騰や円安のため日本でも物価が上がり、実質賃金が上がらない日本人の生活はどんどん貧しくなっている状態。
物価が上がる局面でも物価以上に賃金が上がれば問題ありませんが、日本の実質賃金は約30年間も下がっていく一方。
「失われた30年」などと言われていますが、そもそもなぜ日本はここまで長期低迷が続いているのでしょうか?
そのヒントが法人会の「令和6年度税制改正に関する提言」にありました。
法人会とは?
正しい税知識を身につけたい。もっと積極的な経営をめざしたい。社会のお役に立ちたい。 そんな経営者の皆さんを支援する全国組織、それが法人会です。
現在、約80万社の会員企業、41都道県に440の会を擁する団体として大きく発展しています。 あなたに近く、社会と広く。どこまでも人を中心に、さまざまな活動を展開する法人会。
税のオピニオンリーダーとしての貢献はもとより、会員の研鑽を支援する各種の研修会、また地域振興やボランティアなど地域に密着した活動を積極的に行っています。
健全な納税者の団体、よき経営者をめざすものの団体…これが法人会です。
(出典:越谷法人会)
今回の記事では、法人会の政府への提言をもとに下記のポイントについて解説します。
- 日本が「失われた30年」を招いた理由とは?
- 日本が「失われた30年」から復活する方法
日本経済の力強い復活を願っている方は参考にしてください。
- 法人会の提言内容は正しい?
- プライマリーバランス(PB)の黒字化を目指すべき?
- 異次元の少子化対策の財源は消費税が最適?
- 日本が「失われた30年」から抜け出せない原因とは?
- 「失われた30年」から日本が復活する方法とは?
- まとめ
法人会の提言内容は正しい?
法人会の「令和6年度税制改正に関する提言」は下記の≪はじめに≫の書き出しから始まります。
我が国の社会経済活動に大打撃を与えたコロナ禍はほぼ収束し、ロシアのウクライナ侵攻などを背景とした急激な物価上昇も落ち着きを取り戻してきた。いまだ金融政策は異次元緩和から脱却できないでいるが、我が国の経済財政運営は〝戦時〟から〝平時〟のそれに切り替える段階に至ったといえよう。
上記の現状認識に対して共感する方はどれだけいるのでしょうか?
コロナのゼロゼロ融資の返済が始まり、企業の倒産件数は増えています。
また、賃金上昇が物価高に追い付かずに実質賃金は17ヶ月連続マイナス。物価上昇の影響が落ち着いているとは思えません。
この状況下で経済財政運営を平時に切り替えるという感覚があまりにも庶民レベルとかけ離れていないでしょうか。
法人会は下記のような事を政府に提言していますが、現状の日本で提言内容通りの施策が実行されれば、確実に地獄のような不況に陥ります。
- 2025年度の基礎的財政収支(プライマリー バランス=PB)黒字化
- 少子化対策の財源確保(増税)
正に上記のような考え方が蔓延している事が失われた30年を招いた大きな原因。
次項以降で法人会が提言している内容を取り上げ、日本が「失われた30年」から抜け出せない原因について解説します。
プライマリーバランス(PB)の黒字化を目指すべき?
法人会は提言の中で、基礎的財政収支(プライマリー バランス=PB)の黒字化を政府に迫っています。
まずは2025年度の基礎的財政収支(プライマリー バランス=PB)黒字化目標を確実に達成せねばならないが、その後の財政健全化の議論も並行して開始する必要がある。
プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、行政が行うサービスにかかる経費を税収等で賄えているかどうかを示す指標。
財務省のHPには下記のように解説されています。
プライマリーバランス(PB)とは、社会保障や公共事業をはじめ様々な行政サービスを提供するための経費(政策的経費)を、税収等で賄えているかどうかを示す指標です。現在、日本のPBは赤字であり、政策的経費を借金で賄っている状況です。
(出典:財務省)
プライマリーバランスの黒字化を目指すということは簡単に説明すると、国債に頼らずに国の経費を賄うこと。
実は、この奇妙な目標を掲げているのは日本だけ。
プライマリーバランスを黒字化すると、その国の経済状況は悪化します。
その理由は、PB黒字化を目指して緊縮財政を行うと世の中のお金の流れを悪くしてしまうから。
実際、PBを黒字化して財政破綻した国があります。
それがアルゼンチンとギリシャ。
PBの黒字化は結果であって目指すものではありません。
国債を返済するためには国民の資産を吸い上げる必要がある
法人会の提言の中には国債を返済すべきという文言もあります。
コロナ対策で積みあがった国債の返済計画も忘れてはならない。
国債を返済するということは、国(政府)が国民のお金を吸い上げるということ。
例えば、国債残高が増えると財政破綻の可能性があるから1000兆円の国債を一気に返済しようとすれば、国民から1000兆円を税金として徴収する必要があります。
そんなことをしたら日本経済が壊滅的な打撃を受けるのは明白。
個人や企業は借りたお金を返済する必要がありますが、自国通貨建ての国債は返済の必要はありません。
国(政府)には通貨発行権があります。
国(政府)と個人や企業を同一視してはいけません。
下図を確認すればわかる通り、どの国も国債残高が増える一方。
(出典:https://www.fukurou.win/https-www-fukurou-win-national-government-bond3/)
米国や英国などを見ても政府債務を減らしている国はない。つまり返済していない。
満期が到来した国債は、新たに国債を発行して借り換えているのです。
国債残高が増えるのは経済成長を目指している国では当たり前のこと。
国(政府)が国債を発行して財政出動すれば、民間に通貨を供給する形になります。
なお、上記の図を確認すると、国債残高の伸び率としては日本が極端に低いことが分かります。
国債残高が増えると日本は財政破綻するのか?
国債を発行し過ぎると日本は財政破綻するという方がいますが、本当でしょうか?
実は、日本が円建てで国債を発行している限り財政破綻(デフォルト)することはありません。
これは財務省のHPにも下記のように掲載されています。
『日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない』
先述の通り、国(政府)には通貨発行権があるわけですから、円建ての国債であれれば日本円を刷って返済することが可能です。よって、財政破綻(デフォルト)したくてもできません。
では、無尽蔵に国債を発行できるのかというと、それはできません。
国が供給能力を超えて財政出動を続ければ、需要過多で極端なインフレになってしまいます。
よって、債務残高ではなくインフレ率を目標に財政出動すべきです。
現状の日本であれば、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することが可能。
異次元の少子化対策の財源は消費税が最適?
法人会は少子化対策の財源として消費税の増税を暗に求めています。
岸田政権は「異次元の少子化対策」を打ち出しながら、有力な財源となり得る消費税など新たな負担は求めないとしている。少子化対策は目的税としての消費税の対象分野である。
少子化対策の財源として消費税を増税すると少子化は解決しません。
少子化対策で最悪な財源は消費税です。
少子化対策の財源として消費税を増税すれば、逆に少子化が進むことは間違いありません。
そもそも既に国民負担率が約5割なのに更に増税するのは愚策。
また、物価高に苦しむ日本の実質賃金は17か月連続のマイナス。賃金上昇が物価上昇に追いついていないため消費は低迷。
ここで消費税を上げれば物価が強制的に上がり、GDPの約5割を締める消費が停滞するのは明らか。
消費税は消費に対する罰金です。モノを買う度に10%の罰金が発生するイメージ。
よって、消費税を増税していいのは景気が加熱し過ぎて消費を抑える必要がある時だけ。
また、下記記事で解説しましたが消費税は雇用も不安定化させます。
消費税は最悪な税金で、日本弱体化装置といっても過言ではありません。
景気が減退して雇用が不安定化すれば、ますます結婚する人が減ります。
婚外子の少ない日本で婚姻数が減れば、ダイレクトに少子化に影響します。
日本が「失われた30年」から抜け出せない原因とは?
バブル崩壊後、法人会が提言しているような緊縮財政が続いてきたので、日本は「失われた30年」を経験することになってしまいました。
この30年間、日本を苦しめてきた大きな原因が緊縮財政。
しかし、緊縮財政は絶対悪なのかというと、そういうわけではありません。
あくまでも経済対策の手法の1つ。
重要な事は、「緊縮財政はインフレ対策」であり「積極財政はデフレ対策」という点。
日本のバブル時代のように景気が過熱し過ぎた際には緊縮財政を行い、インフレを抑える対策を行うことが有効。
例えば、政府は国債の発行を控え、更に世の中に回り過ぎるお金を間引くために消費税を増税すれば、景気の過熱は冷めるでしょう。
実は、デフレで苦しんでいる日本で行われてきたことがインフレ対策である緊縮財政でした。
全く真逆の政策が行われてきたので、日本の景気は低迷し続け、約30年間も不況に苦しんできたわけです。
デフレ下でインフレ政策が続いてきた理由
なぜ、デフレ下でインフレ政策が続けられてきたのでしょうか?
それは企業や個人にとってはインフレ政策の方が耳障りがいいから。
ムダを切る、借入を極力避ける、借金は早く返す。
不況下では、どれも個人や企業にとって合理的で正しい政策。
よって、法人会のように全く真逆の政策を政府へ提言してしまうのです。
国民自身が自分を苦しめる政策を政府に求めてきたことになります。
「身を切る改革」というインフレ政策をデフレ下で声高に叫んでいる政党が支持されるのが何よりの証拠。
国レベルで考えると、現在のような需要不足の時は個人や企業からすると合理的ではない政策が必要になります。
企業や個人がデフレで財布のヒモを締めた時には、国(政府)が国債を発行して財政出動しなければ、デフレは解消されません。
デフレ下で国(政府)まで歳出を削ってしまったら、更に不況が深まってしまいます。
「失われた30年」から日本が復活する方法とは?
デフレの日本に必要な政策は積極財政。インフレ対策である緊縮財政ではありません。
因みに、現状の日本のインフレはコストプッシュ型で構造的には不況(デフレ)の状態。
政府の大胆な財政出動を呼び水として、個人や企業が積極的にお金を使う状況を作り出す必要があります。
具体的に行うべき政策は下記の通り。
- 消費税廃止または減税
- ガソリン税減税
- 社会保険料減免
- 物価高対策の現金給付(所得制限なしで複数回) など
財源の心配をする方もいるでしょうが、全く問題ありません。
日本には自国通貨建ての国債という安定財源があります!
上記のような政策により消費が増えれば、経済は活性化します。
経済が活性化して国内の需要が増えれば、企業は設備投資を増やすでしょう。
個人も企業もお金を使うようになれば、更に経済は活性化します。
上記のような好循環が発生すれば、企業は儲かるので従業員の給与も上がるでしょう。
多数の企業が儲かれば、多くの方の賃金が上がることになり、日本人全体の所得を底上げすることにつながります。
また、給料が上がって消費が更に活性化すれば、デフレを脱してインフレになります。
需要が増えることによるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれ、経済が好循環する良いインフレ。
ディマンドプルインフレにより物価が上がるようになれば、日銀(日本銀行)による金融緩和政策の出口も見えてきます。
更に経済の好循環が続けば、法人税や所得税の税収が増え、結果的にPB(プライマリーバランス)黒字化も達成できる可能性があるでしょう。
なお、国(政府)に頼らずに国民一人一人が努力してこのデフレ不況を乗り越えるべきというとんでもない理論を展開する有識者が多いですが、全くマクロ経済を理解できていません。
不況時の個人や企業の合理的な行動は、節約して財布のヒモを堅くすること。
デフレ不況を克服するためには、合理的ではない行動が取れる国(政府)が財政出動という形でお金を使う必要があります。
今こそ、国(政府)の通貨発行権を国民が豊かになるために使うべきです!
まとめ
日本が「失われた30年」から抜け出せない原因はバカの一つ覚えのように続けられてきた緊縮財政。
30年間もデフレに苦しんできた日本で行われてきた政策が、インフレ対策である緊縮財政。
財政のアクセルを吹かしてデフレを脱却すべき局面で、ひたすらブレーキをかけ続けて不況を深めてきました。
そして、30年間全く成長しない国になってしまった。
これまでの愚をこれからも繰り返すのでしょうか。いい加減目を覚ますべき。
約30年間も日本の国力を削り続けてきた政治家には大きな責任があります。
これまで進めてきた緊縮財政で経済が好転しないのであれば、他国の事例などを参考に政治家が政策を転換すべき。
約30年間、国民を不幸にし続けてきたわけですから日本の政治家は万死に値するといっても過言ではないでしょう。
しかし、その頼りない政治家を選んでいるのは我々国民。
実は、我々国民が自らを苦しめる緊縮脳を持った政治家を選んでしまっているということ。
我々国民が政治に無関心のままだと残念ながら「失われた40年」は確定的。
今だけ金だけ自分だけの政治家を極力排除して、政治を浄化しないと日本に未来はありません。
逆に国民の一定数が政治に関心を持ち正しい政策が行われるようになれば、日本経済を復活させることはできます。
今ならまだ間に合いますが、残された時間がどんどん少なくなっていることは間違いありません。