令和5年度(2023年度)税制改正大綱において、2024年以降のNISA制度の恒久化・非課税期間の無期限化の方針が示されました。
NISA制度の非課税枠は大きく拡充され、非課税期間も無期限化されます。
改正内容としては期待以上で評価はできますし、活用すべきではありますが、手放しで絶賛できる状態ではありません。
その理由は、新NISA制度が始まったとしても日本人が豊かになることはないから。むしろ、日本経済はより悪い方向に進む可能性すらあります。
今回は新NISA制度では日本人が豊かになれない理由について解説したいと思います。
なぜ、日本人の生活は苦しくなる一方なのかと疑問に感じている方は参考にしてください。
NISA制度の非課税枠拡充・無期限化では日本人の所得が倍増しない理由とは?
新NISAは2024年1月からスタートする予定です。
現行NISAからの改正内容のポイントは、下記の通り。
- 制度の恒久化
- 非課税期間の無期限化
- 非課税投資枠の大幅拡充
- つみたてNISAと一般NISAの併用可
詳細は下表の通り。
なお、新NISAの改正内容や活用方法については、下記記事で詳細に解説していますので、ご参照ください。
上記の通り、改正内容はかなりのもので一定の評価はできますし、改正されれば活用すべきです。
しかし、今回のNISAの非課税枠拡充・無期限化で日本人は豊かになるのでしょうか?
断言しますが、今回のNISA拡充では日本人は豊かになりません!
むしろ、NISAを拡充して自己責任論が強くなれば、豊かになるのは一部の人達だけで、多くの日本人はより貧困化していくことになるでしょう。
新NISAで日本人が豊かになると本気で考えている政治家や評論家が居るとしたら相当にピントがズレています。
NISA制度の拡充では日本人が豊かにならない理由について次項以降で解説したいと思います。
タネ銭(投資資金)確保の為に消費が落ちる可能性
所得が増えない状態で投資を喚起すれば、景気の低迷を助長する可能性があります。
投資をするには原資であるタネ銭が必要。
所得が多ければ、余裕資金を運用に回すという形になりますが、収入が増えなければ、投資にお金を回すためには節約が必須。
多くの方が拡充されたNISA制度を利用するために節約すれば、消費が減退して景気が低迷する可能性もあります。
これは、まさに合成の誤謬。
日本人一人ひとりにとって、将来に備え節約して投資に力を入れるということは合理的なことで正しい選択です。
しかし、日本全体で考えた時には消費が減退して日本経済の低迷を助長してしまいます。
新NISAには年間360万円の非課税枠があります。
非課税枠を少しでも多く埋めたいと考える方も少なくないでしょう。
コストプッシュ型の悪性インフレで節約に走る人が多い中、更にタネ銭確保のために消費が減退すれば、日本経済はデフレに逆戻りする可能性があります。
日本の株式市場は活性化しない
岸田政権はNISA制度の拡充により日本の株式市場活性化を狙っているようですが、投資資金は日本市場を素通りして海外市場に出ていってしまう可能性が高いでしょう。
私自身も日本市場に積極的に投資しようとは思っておらず、運用の中心は米国株式や世界株式型の投資信託です。
多くの日本人が投資に目覚めて金融リテラシーが上がれば、投資資金は魅力の乏しい日本の株式市場には集まりません。
全世界型の株式ファンドで数パーセントの資金が日本の株式市場に入る程度になる可能性があります。
所得が増えない現状で日本人が投資に力を入れるようになれば、タネ銭を作るための節約で消費が減退して日本経済は低迷。
更に、投資資金は日本の株式市場を素通りして米国を中心とする世界の株式市場を活性化するというオチが待っているでしょう。
格差拡大を助長する
以前、岸田首相は「所得倍増計画」を掲げていましたが、いつの間にか「資産所得倍増計画」に変わっていました。
「資産所得倍増計画」に秘められたメッセージは「所得を増やすことに関して政府が非課税制度を拡充してやるから国民は自分で資産を増やす努力をしろ」と丸投げした状態。
つまり、国民自らがリスクを取って自助努力で資産所得を増やせということ。所得を増やせるかどうかは自己責任。
しかし、投資資金を捻出する余裕がない人も少なくないでしょう。
国が国民に自己責任を強要すると貧富の格差が開きます。
このままの政策が続けば、日本に一部の勝ち組と大多数の負け組という格差の構図ができてしまいます。
こういう話をすると、私はエリートで勝ち組だから問題ないと考える方もいるでしょう。
しかし、少数の勝ち組になったとしてもメリットを上回るデメリットが発生する可能性があります。
弱肉強食の世界では、一部の強者が多くの富を手にし、多数の弱者が残り少ない富を分け合うことに。
以下の勝間さんの動画にあるように、貧富の差が拡大し過ぎると勝ち組の方にとっても日本は住みにくい国になってしまいます。
格差が拡大すれば、負け組となった大多数が自暴自棄となり、犯罪に走る可能性も高まります。
コロナ禍以後に診療所や電車内であった放火事件のような狂気的な犯罪が日本で増えることになるでしょう。
日本に必要な政策は『資産所得倍増』ではなく『所得倍増』
今の日本に必要な政策は「資産所得倍増プラン」ではなく「所得倍増プラン」。
つまり、普通に頑張った人が豊かになれるような所得を稼げる環境を作り、中間層を底上げするような政策が必要です。
中間層を底上げすれば、結婚や出産する人も増えて少子化も改善するでしょう。
これこそが本当の「異次元の少子化対策」。
日本人を豊かにする鍵は緊縮財政から積極財政への転換
では、日本人全体の所得を底上げするためには、どのような政策が必要なのでしょうか?
これまで日本人を貧困化させてきた原因と逆のことをすれば、日本全体を底上げできる可能性があるでしょう。
日本経済をここまで疲弊させてしまった原因は何か?
その原因は、プライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視して続けられてきた緊縮財政。
政府が積極的にお金を使うべき不況下で行われた政策が、馬鹿の一つ覚えのように続けられてきた緊縮財政。
景気が悪いのに消費税増税を繰り返して国民からお金を吸い上げ、更に景気は悪くなりました。
現状の日本は景気が停滞しているので個人は節約し、需要が盛り上がらない中で企業は設備投資を控えています。
現在の日本では下記のような負のスパイラルが回り続けています。
個人は将来に不安があり、消費を抑えるようになる
⇓
その結果、モノが売れなくなり企業の業績が下がる
⇓
企業の業績が下げれば、賃金も下がる
⇓
賃金が下がれば、個人は更に消費を抑える
⇓
その結果、更にモノが売れなくなり企業の業績が下がる
⇓
・・・以下、上記の繰り返し
景気が悪い時に個人や企業が節約するのは、非常に合理的なこと。その逆のことを個人や民間企業に期待するのは愚の骨頂でしょう。
経済が停滞している状況下で、お金を使えるのは国だけ。
国の大胆な財政出動を呼び水として、個人や企業が積極的にお金を使う状況を作り出す必要があります。
では、財政出動の財源は何か?それは国債です。
国債をこれ以上発行すれば、日本は財政破綻(デフォルト)すると反対する方がいます。
しかし、下記記事で解説した通り、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはありません。
よって、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することで不況を脱する必要があります。
自国通貨建ての国債を発行している国の財政破綻(デフォルト)はないので、インフレ率を目標に財政出動すべきです。
消費税を廃止してデフレ脱却を目指す
国債を発行し、何を行うべきか?
行うべき政策の1つが、消費税の廃止です。
消費税を廃止して消費が増えれば、経済は活性化します。
経済が活性化して国内の需要が増えれば、企業は設備投資を増やすでしょう。
個人も企業もお金を使うようになれば、更に経済は活性化します。
上記のような好循環が発生すれば、企業は儲かるので従業員の給与も上がるでしょう。
多数の企業が儲かれば、多くの方の賃金が上がることになり、日本人全体の所得を底上げすることにつながります。
また、給料が上がって消費が更に活性化すれば、デフレを脱してインフレになります。
需要が増えることによるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれ、経済が好循環する良いインフレ。
ディマンドプルインフレにより物価が上がるようになれば、日銀(日本銀行)による金融緩和政策の出口も見えてきます。
更に経済の好循環が続けば、法人税や所得税の税収が増え、結果的にPB(プライマリーバランス)黒字化も達成できる可能性があるでしょう。
まとめ
新NISA制度が始まったとしても日本人が豊かになることはないでしょう。
むしろ、日本経済はより悪い方向に進む可能性すらあります。
個人で多少の資産を持っていたとしても日本全体が沈んでしまえば、ほとんど意味はありません。
資産運用や副業で豊かになるよりも、日本全体が豊かになる事を目指す方が国民一人ひとりが裕福になる可能性は高まります。
ミクロ的な視点だけで考えず、マクロ的な視点が必要。
個人で頑張ってもたかが知れています。情けは人の為ならずです。
今の日本に必要なのはNISAの拡充ではなく、所得が倍増する政策。中間層の底上げ。
約30年間も日本の国力を削り続けてきた政治家には大きな責任があります。
これまで進めてきた緊縮財政で経済が好転しないのであれば、他国の事例などを参考に政治家が政策を転換すべき。
約30年間、国民を不幸にし続けてきたわけですから日本の政治家は万死に値するといっても過言ではないでしょう。
しかし、その頼りない政治家を選んでいるのは我々国民。
実は、我々国民が自らを苦しめる緊縮脳を持った政治家を選んでしまっているということ。
政治に無関心でいられても無関係ではいられません。
日々の暮らしをよくするためには政治を正す必要があります。
日本人の生活水準を上げるためには、国民一人ひとりが政治に関心を持ち、政策に関心を持つ必要があります。