日本の平均寿命は毎年のように過去最高を更新しています。
「人生100年時代」といわれる日本で老後の柱となるのは公的年金であることは間違いありません。
しかし、公的年金について不安を感じている方も少なくないでしょう。
「公的年金は破たんする」「年金は保険料を支払うだけムダ」など、誤った認識から年金保険料を支払わない方もいます。
今回は、「公的年金の積立金運用は上手くいっているのか?」や「国民の半分は公的年金の保険料を払っていない?」などの疑問に答えてくれている下記の本をご紹介します。
「人生100年時代の年金戦略」田村正之
今回は、「人生100年時代でも公的年金は破たんしないのか?」という点について確認したいと思います。
- 公的年金の積立金運用は大失敗!?
- 【未納問題】国民の半分は公的年金の保険料を払っていない!?
- 少子高齢化でも破たんしない仕組みが公的年金にはある
- 公的年金は「積立貯蓄」ではなく「保険」と理解する
- まとめ
公的年金の積立金運用は大失敗!?
公的年金の積立金(2020年度第1四半期末現在で162兆926億円)を運用しているのが、国内最大級の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。
以前、コロナショックで大きな運用損17.7兆円(2020年1月~3月期)を出したと話題になりました。
公的年金の積立金に対するイメージは運用が上手くいっていなくて、大きな損を出しているというものではないでしょうか。
メディアなどが運用環境が悪い時だけ非難することから、積立金の運用は上手くいってないないイメージがあります。
しかし、実際の運用状況は良好で、2001年度からの年平均収益率は3.56%、累積の収益額は101兆6,787億円です。
更に年金給付の財源は保険料と国庫負担が大半で、積立金の比率は1割程度。
積立金の運用は年金の存続に大きな影響を与えないと、著者の田村さんは指摘しています。
【未納問題】国民の半分は公的年金の保険料を払っていない!?
公的年金の保険料は未納率が高く、現役世代の半分しか払っていないという事を聞いたことがないでしょうか。
実は、これも誤解です。
公的年金の被保険者は、自営業者などの第1号被保険者、会社員や公務員などの第2号被保険者、第2号被保険者の配偶者である第3号被保険者の3種類です。
2018年3月時点での内訳は下記の通り。
- 第1号被保険者:1,505万人(22%)
- 第2号被保険者:4,356万人(65%)
- 第3号被保険者:870万人(13%)
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まず、理解すべきことは、第2号被保険者は給与から保険料が天引きされるため、未納にはなり得ない。
また、第3号被保険者の保険料も第2号被保険者の保険料から出ているので、未納にはなり得ません。
未納が発生し得る第1号被保険者の中で保険料を払っている人は774万人(1号の52%)。
第1号被保険者で保険料を免除されている人が574万人(1号の38%)、未納者が157万人(1号の10%)となっています。
上記の免除者と未納者を合わせると48%で、第1号被保険者の半分弱が未納者と免除者ということになります。
しかし、未納者の比率は第1号被保険者だけでなく、被保険者全体でみるべき。
保険料の未納者と免除者を合わせた731万人を被保険者全体の合計である6,731万人で割ると約10%にしかすぎません。
更に、免除者を除く未納者で考えると、全被保険者の2%強ということになります。
つまり、現役世代で保険料を支払っていない未納者は2%強しかいないということです。
なお、未納者は将来、公的年金を受け取れませんので、年金財政への影響は大きくありません。
上記からは、どこの数字を切り取るかでイメージが大きく変わることが分かります。
保険料の未納問題については、年金不安を煽る数字の切り取られ方をされています。
なお、年金保険料の未納と免除の違いについては、下記記事をご参照ください。
少子高齢化でも破たんしない仕組みが公的年金にはある
公的年金制度は、少子高齢化が進んでも破たんしないように、下記のような施策を実施してきたと、本の中で紹介されています。
国民年金、厚生年金の保険料引き上げ
財政の健全化のために2004年度以降2017年度まで毎年、国民年金は金額で計23%、厚生年金は収入に占める割合で計31%、保険料を上げています。
収入が大きく増えない中で現役世代の手取額は年々、下がっていく状況です。
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マクロ経済スライドの導入
マクロ経済スライドとは、2004年から導入された制度で、現役世代の減少や平均寿命の延びに合わせて年金の給付水準を調整する仕組みです。
具体的には、物価や現役世代の賃金が上がっても、年金から「スライド調整率」を差し引き、物価や賃金が上昇するほど年金額を増やさないようにするという制度。
少子高齢化に応じて年金水準を抑えるように調整し、公的年金制度を安定的に運営していく仕組みがマクロ経済スライドです。
マクロ経済スライドについては、以下の動画で分かりやすく解説されているので、ご覧ください。
国庫負担の引き上げ
国民年金の給付のうち、税金で賄う比率を3分の1から2分の1に引き上げました。
税金を納めていながら国民年金保険料を払っていない方は、年金を受け取る権利を半分捨てていることになります。
財政検証による見直し
公的年金は5年に1度、財政検証を行って、問題があれば修正を行うい方式となっています。
公的年金は「積立貯蓄」ではなく「保険」と理解する
公的年金の破たんから話はそれてしまいますが、年金に対しては不安だけでなく、不満を持っている方も少なくないでしょう?
その不満は、公的年金は「積立貯蓄」のような制度だという勘違いから発生しています。
多くの方は、公的年金は「積立貯蓄」のようなものだと考えていると思いますが、下記記事でも解説した通り、公的年金は長生きリスクに備えるための「保険」です。
長生きを含む、リスクに陥った人を皆で支える共助(助け合い)の制度という認識をしておくべき。www.fpinv7.com
公的年金は上記の長生きリスクを含め、3つのリスクに対する保障があります。
- 老齢年金
長生きのリスク - 障害年金
ケガや病気に対するリスク - 遺族年金
死亡時のリスク
公的年金のような「保険」制度を民間の保険会社が真似することはできません!
著者の田村さんは、公的年金を「人生のリスクに対するフルパック保険」と表現。
更に、公的年金は誰かが人生のリスクに陥った時にみんなが助け合う相互扶助の「保険」であると理解していないことが、公的年金への不満につながっていると指摘しています。
公的年金は「保険」なので、支払った金額(保険料)よりも受け取る額(年金)が少ないという方も存在するわけです。
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まとめ
公的年金は世間で心配されているほどには、破たんのリスクはないという事が分かります。
不安を煽っているのはネタにしやすいマスコミや保険などの金融商品の販売につなげたい金融機関でしょう。
年金不安を煽られ、「公的年金は将来、破たんするから保険料は払わない」という誤った判断をしないようにお気を付けください。
なお、公的年金が破たんする可能性は低いですが、公的年金だけで老後資金準備が十分というわけではありません。
「老後2000万円問題」でも話題になりましたが、公的年金以外にも老後資金の準備をしておかないと、老後資金が不足する可能性が高いことは間違いありません。
今回ご紹介した本には、公的年金についての解説だけでなく、公的年金の活用法やイデコなどの上乗せ制度についても分かりやすく解説されています。