FIRE(早期リタイア)という言葉を目にする機会が増えました。
少子高齢化が進み、公的医療保険制度や公的年金の将来性に不安がある日本において、不労所得で生活する早期リタイアに興味を持っている方も多いでしょう。
FIREを目指すと自分を取り巻くお金について考えるきっかけとなり、金融リテラシーが上がるというメリットがあります。
しかし、安易なFIREは避けるべき。
その理由は、安易なFIREは支出を切り詰めて生活をし続けなければならない貧乏FIREに陥る危険性があるなど、リスクやデメリットがあるから。
今回は、FIREのデメリットやリスクと、その解決法について考えたいと思います。
FIREとは?
FIREとは「Financial Independence, Retire Early」 の頭文字4文字で、日本語では「経済的に自立して早期退職する」ということになります。
簡単にいうと、下記のように配当所得などの不労所得が生活費を上回っている状態。
「生活費 < 不労所得」
つまり、FIREとは働かなくても不労所得だけで生きていける状態のことです。
FIREは、もともとアメリカのミレニアル世代(1981~1996年生まれ)で流行した概念で、欧米で大きなFIREムーブメントが起きました。
節約で生活費を削減してコンパクトに生活しつつ、運用で資産を増やしてリタイアし、不労所得だけで生活するという概念です。
FIREするために必要となる額は?
FIREするためにはどの程度の金額が必要となるのでしょうか?
FIRE(早期リタイア)するために必要な額は「年間支出の25倍」とされています。
25倍の根拠は「4%ルール」に基づいたもの。
「4%ルール」とは、資産運用を続けながら生活費として取り崩す額を投資元本の4%に抑えれば、資産を枯渇させることなく暮らせるというアメリカでは定着している考え方です。
資産が生活費(年間支出)の25倍になれば、4%ずつ取り崩しながら生活しても資産は枯渇しない計算になります。
FIRE(早期リタイア)のデメリットやリスクとは?
一般的にFIRE(早期リタイア)についてのデメリットやリスクとして挙げられている点は、下記の通りです。
- 労働収入がなくなり金銭的に生活が不安定になる
- 将来受け取れる年金額が減る
- 世間的な信用がなくなる
- 社会的なつながりを失い生きがいがなくなる
上記のデメリットを1つずつ確認していきたいと思います。
労働収入がなくなり金銭的に生活が不安定になる
当たり前ですが、FIREすれば労働収入がなくなり、生活が不安定になります。
特にサラリーマンの方がFIREした場合、今まで安定していた毎月の給与収入が無くなるので、金銭的に生活が不安定になることは間違いありません。
更に、FIRE後の収入を株や債券などの運用による収益に頼っている場合、相場状況によって収入額が大きくブレることになります。
仮に、株式市場が長期間低迷するような状況になれば、収入が大きく下がってしまいます。
将来受け取れる年金額が減る
サラリーマンである第2号被保険者の方がFIREした場合、厚生年金の保険料を納めなくなるわけですから、当然、将来受け取れる報酬比例部分である老齢厚生年金の額は少なくなります。
また、FIREしたことにより収入が減り、国民年金の保険料を免除申請したり、未納状態になった場合には、老齢基礎年金の額も減ることに。
FIREする場合には、その後の保険料支払い状況で、どの程度の公的年金が受け取れるのかを「ねんきんネット」で試算しておいた方がいいでしょう。
世間的な信用がなくなる
不労(資産)所得があったとしても、FIREすれば肩書は無職ということになるので、世間的な信用は下がってしまいます。
住宅ローンを組んだり、クレジットカードを作ったりすることが難しくなることが考えられるでしょう。
また、資産が想定以上に減ってしまい働かざるを得なくなった場合、ブランクが長いほど再就職が難しくなることは想像に難くありません。
社会的なつながりを失い生きがいがなくなる
仕事をやめて趣味などで何かやりたい事ががある方は問題ないと思いますが、ただただ仕事が辞めたくてFIREする方もいるでしょう。
そのような場合、社会とのつながりがなくなってしまい、生きがいを失ってしまう可能性もあります。
社会人になるとどうしても仕事中心の生活になるので、仕事を辞めた途端に何もやることがないという状態になり、人間関係も希薄になってしまうことも考えられるでしょう。
最大のリスクはFIRE後に想定通りの利回りで資産運用ができないこと
私が考えるFIRE後の最大のリスクは「資産運用で想定通りの利回りを出せるのか?」です。
FIREに必要な資産額の前提は、1998年に米国トリニティ大学の教授3名により発表された論文「Trinity Study(トリニティ・スタディ)」。
トリニティ・スタディのシミュレーション条件は下記の通り。
【シミュレーション条件】
対象期間:1926年~1995年の70年間
ポートフォリオ:株式50%:債券50%
取り崩し率:1年で4%
上記の条件で資産の取り崩しを行うと、30年後に資産が残っている確率は96%。更に30年後の資産残高は減るどころか中央値(最高のシナリオではない)で8倍になるというもの。
しかし、トリニティ・スタディの研究結果は、あくまでも過去のデータで検証したものです。
机上の空論ではありませんが、研究結果が未来に対して保証されているわけではありません。
特に変化の激しい今の時代は、数年先でさえもどんな世の中になっているかは想像できません。
例えば、インデックス投資の前提は「今後も資本主義社会が継続し、短期間の下落を繰り返しながらも、長期的に世界経済は成長し続ける」というものですが、その前提が崩れる可能性もあります。
そうなれば、インデックスファンド自体が値下がりして、資産が大きく目減りする可能性もあるでしょう。
では、資産運用しなければいいのかというと、インフレのリスクがあります。
ハイパーインフレで日本円の価値が大暴落すれば、FIREの前提は完全に崩れてしまいます。
収入源を1つに絞ることのリスク
FIREすると、収入源は金融資産からの収益だけに絞られてしまいます。収入源を何か1つに頼ってしまうと、リスクが高くなります。
労働収入だけ、資産運用だけ、公的年金だけなどと、収入源が1つだけだと、その収入源の前提が崩れた場合、一気に生活が困窮する事に。
リスクを分散する意味でも複数の収入源を持っている方が安心です。
目指すべきはFIREではなくFI状態
FIRE(早期リタイア)するという事は、上記のようなリスクやデメリットを伴います。
特に目標額である生活費の25倍ギリギリの資産しか持たない状態でのFIREは危険。
無理なFIREは、生活費を極端に切り詰めなければならない貧乏FIRE状態に陥る危険性があります。
7000万円の資産でFIREすれば安泰か?
FIRE業界で有名な三菱サラリーマンさんは資産7000万円でアーリーリタイアしたそうです。
7000万円というと大きな額ではありますが、4%ルールで取り崩すとすれば年間の収入は280万円。
独身で節約すれば足りるのでしょうが、少しさみしい気がしませんか?家族で生活するにはかなり厳しい額でしょう。
複数の収入源を確保して豊かに暮らす
FIREのFI(経済的自立)とRE(アーリーリタイア)は切り離して考えるべきではないでしょうか。
どうしても仕事を辞めたい人は別として、FI状態を達成したからといってアーリーリタイアする必要はありません。
FI状態になれば仕事を続けるにしても、嫌な仕事はしない、仕事量を減らすなどの選択肢を持つ事が可能。
FI(経済的自立)を達成しても自分のやりたい仕事を無理のない範囲で続ければ、FIREのデメリットやリスクを回避できます。
私自身もFIREを目指していましたが、FI状態になったとしても仕事を辞めるつもりはありません。
FI(経済的自立)を目指しながらも人的資本(稼ぐ力)に磨きをかける。
金融資産からの収入を得ながらも生きがいを感じられる仕事を続ければ、老後だけでなく現役時代から豊かな人生を送れるでしょう。
FI(経済的自立)を目指す事はムダなのか?
アーリーリタイアしないのであれば、FI(経済的自立)を目指すのはムダではないかと言われそうですが、FIを目指すことは無駄にはなりません。
FI(経済的自立)を目指すことにより下記のようなメリットが手に入ります。
- 稼ぐ力(人的資本)の向上
- 金融リテラシーの向上
- 生活費を削減したコンパクトな生活
FI(経済的自立)を目指すためには、収入を上げる努力が必要なので稼ぐ力(人的資本)が向上しますし、資産運用を検討すれば、金融リテラシーが上がります。
ムダな生活費を削減すれば、コンパクトな生活も可能。
また、FI(経済的自立)を達成するための必要な資産額に到達できなくても、そこまでに積み上げた資産は無駄になるどころか、大きな財産です。
目標としている資産額に届かなくても金融資産(株や債券など)からの収入が増えれば人生が大きく変わる事は間違いないでしょう。
まとめ
FIREという考え方自体は素晴らしいもの。FIREを目指すことにより、金融リテラシーも上がるでしょう。
しかし、アーリーリタイアを決断する際には慎重な検討が必要です。
下記のようなデメリットやリスクがある事を考慮すべき。
- 労働収入がなくなり金銭的に生活が不安定になる
- 将来受け取れる年金額が減る
- 世間的な信用がなくなる
- 社会的なつながりを失い生きがいがなくなる
FIRE後に更に支出を切り詰めるという考え方もありますが、FIREするのにある程度の我慢をする方が多いはず。そのような状態で更に支出を切り詰めるのはいかがなものでしょうか。
一歩間違えれば、一生支出を切り詰めた生活をすることになりかねません。貧乏FIREだけでは避けたいところ。
FI状態を達成しても自分のペースで仕事を続ければ、人的資本と金融資産の両輪で豊かな人生が送れます。
日本は給与収入が上がりにくい上に税金や社会保険料は上がり、手取り収入が減る傾向にあります。
そのような日本で人的資本と金融資産の両方から収入を得る方が増えれば、現在の閉塞感のある日本社会が変わるのではないでしょうか。